春の日のデート-4
「ただいま!」
何の返答もない。
”相変わらず不用心なことだ”
と舌打ちしながら、家中に響くような足音を立てて仏間に向かった。
南向きの窓からの柔らかい陽射しが、部屋を明るくしていた。
昔ながらの豪壮な仏前にぬかずくと、両膝をそろえ目を閉じた。
父の死に顔を思い出しながら手を合わせながら、
「南無妙法蓮華経」
と唱えた。
神仏を信じているわけではないが、自然に口からこぼれていた。
「さぁ、お茶でもどう。」
懐かしい声がする。
忘れていたおふくろの声だ。
”あぁ、帰ってきたんだ。”
と、再確認した。
正座したまま体を回し、母の入れてくれた苦いお茶を口にした。
「あッ。」
そこには、先ほどから疎ましく感じていた中年女がいた。
私は、唖然としたまま口を開けていた。
「どうしたんだい、狐につままれたような顔をして。お母さんを見忘れたわけでもなかろう。ほほほ・・・」
私は何も言うことが出来ず、唯口をパクパクと動かすだけだった。
庭で、ルルが
「ワン、ワン。」
と、いつものように吠えている。