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春の日のデート
【ファンタジー その他小説】

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春の日のデート-1

春の日のデート

  
春眠暁ヲ覚エズ

処処啼鳴ヲ聞ク

夜来風雨ノ声

花落ツルコト知ル多少

という漢詩にもあるように、春の夜明けは眠いものである。

今日も又私は、暖かい床の中でウツラウツラしていた。

外は少し風があるらしい。

カーテンが揺れている。

窓が半開きになっている。

母の苦心の策である

。風で揺れるカーテンの隙間から、時々光が射し込むみ、その明るさで目を覚ます。

春休みの故郷での一幕である。


見覚えのあるような無いような中年の女が、私が帰り行く家の方向からやって来る。

誰なのか思い出せない。

私は首をかしげながら近づいて行った。

もしかすると、関係の無い人かもしれない。

「よくかえってきたネ。ゴクローサン。疲れただろー。」

と、傍に寄るなり私の鞄を取ろうとした。

私の心に警戒心が起こり、思わず鞄を持つ手に力が入る。

”何て図々しい奴だ、馴れ馴れしい口をきいて。

しかも鞄を取ろうとするとは。”

”私は、あなたを知りません!”

そう言ってやろうとかとも思ったが、止めた。

それ程不快ではないのだ。

何かしら、暖かいものが伝わってくる。

いい人かもしれない。お義理の声ではない。

”あぁ、故郷に帰ってきたんだ”

と、感じた。

そんな私をよそに、その中年女は私にピタリと寄り添い色々と尋ねてくる。

”向こうの水はどうだとか、食べ物は新鮮かとか、下宿の小母さんはどんな人だとか、勉強はしているかとか、・・・。”

よく口のまわる人だ、まったく。

そんな私を驚かせたのは、私の帰郷の理由を知っていたことだ。


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