春の日のデート-3
「ワン、ワン!」
勢いよくスピッツが飛び出してきた。
私が可愛がっていたルルだった。
父の葬式の時にはこのルルが私の心の支えになってくれた。
私が後悔の念に苛まれている時、私の靴にじゃれつき靴紐をほどいてしまった。
なおもその紐を噛み切ろうとするに至って、私はルルに対し手を振り上げて叩く仕種をした。
ルルは異様な空気に気が付いたとみえ、私を下から見上げ得意満面の顔をした。
私は苦笑しつつ振り上げた手の処置に困った。
しっぽを千切れんばかりに振るルルの頭を撫でてやらざるを得なくなり、私のポッカリと空いた穴がふさがれたのを感じた。
あの、いろりの時の私が今のルルだった。
そして今の私が、家族だったのだ。
父は精一杯の愛情を私に向けてくれていたのに、私はそれを・・・。
「ワン、ワン!」
私は、反射的に手を差し出していた。
が、ルルは私ではなく隣の中年の女を迎えに来ていた。
私は、横目で憎らしく隣の中年女を盗み見した。
その女は、私のことなど眼中になくルルを抱え上げて頬ずりしていた。
私は、ルルに少なからず嫉妬心を覚えた。
都会での生活は、決して甘いものではない。
一歩外に出れば、それこそ七人の敵が待っている。
この、むきだしの愛情表現を間近に見て、羨ましく感じた。
そんなことを考えている内に、我が家に着いた。
一年前とは打って変わり、思いっきりモダンな門扉があった。
田舎にはそぐわないものだ。
どうせ、叔父さんにでも買わされたのだろう。
と、忌々しげにその扉を押した。
ビクともしない。
益々不快感を覚え、力任せに押した。
それでも開かない。
「それは引くんですょ。」
・・・、まったく不愉快だ。
”どうして引くんだ。普通は、押すものだろうが・・・”
ブツブツこぼしながら玄関のガラス戸を開けた。