淫蕩淫魔ト呪持-10
「う……」
久々のまともなベッドでの睡眠だというのに、ズッカは眉間に皺を寄せ、呻きを漏らしていた。
「や……めろ」
何かにうなされているのか。
幾度も寝返りを打ちながら、時折びくりと身体が跳ねる。
「止めろって言ってるだろ!!」
「ひッ」
飛び起きたズッカの目の前に、キルシェの顔があった。
「キルシェ、てめえ」
ズッカは彼女の顎を引っ掴むと、歯を剥いて言う。
「性懲りもなく俺の部屋に入ってきやがって」
しかし彼女はズッカの言葉に激しく首を横に振った。
「違う違う! もう朝だって、ズッカを起こしに来たんだから!」
ズッカは彼女から手を離すと辺りを見回した。
明るくなった部屋。
ベッドから抜け出し窓を開けると、いつもと同じ、曇った空が見える。
「!」
ズッカははっとして、昨日"それ"がいた場所に目をやった。
「――キルシェ」
「どうしたの?」
窓枠に肘をかけ、ズッカはキルシェを呼んだ。
彼女は窓の外、血の滲んだ地面を見つめながら傍らのズッカに問う。
「いたの、気付いた?」
「ああ」
短く答え、ズッカは拳を握り締める。
「こんな招待状を貰っちゃ、行かないわけにはいかないね」
「招待状?」
キルシェは、昨夜の女のものであろう血痕を指差した。
「悪魔文字で書いてある。えーと……『呪持ち 悪魔三体ヤミの森』」
「来いってことか」
ズッカは顔を顰め、彼には読めないその招待状を見据えた。
不気味な形の血痕だ。
奴は昨日から彼を挑発していたのだ。
ズッカは歪んだ口元を更に歪ませて、乱暴に窓を閉めた。
「くそ、いつの間に朝になったんだ」
ズッカは忌々しげに吐き捨てる。
苛立ちを抑えるためには、何かに当たらなければならなかった。
(あの夢のせいだ……)
内容は覚えていないが、まったく嫌な夢だった。
言い知れぬ不安と恐怖がズッカの中に渦巻いていた。