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淫蕩淫魔ト呪持
【ファンタジー 官能小説】

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淫蕩淫魔ト呪持-9

第四章 誘う、闇

「何で部屋が一緒じゃないのぉ!? 無駄遣いはんたーい!」
「うるせえ」
わめくキルシェの身体を脇に抱え、ズッカはやれやれといったふうに、小さな個室の扉を開ける。
そしてその中に彼女を放り投げて扉を閉めた。
「無駄遣い反対!」
外付けの鍵はない。すぐさまキルシェが扉を開けて顔を出した。
「俺だって無駄遣いはしたくねえ。だが、お前と共寝はもっとしたくねえ」
久々の宿、きちんとしたベッドで眠りたいしな、とズッカ。
キルシェはむっと頬を膨らませた。
「……今日は我慢するもん」
「なら別の部屋でも構わないだろ」
「………」
ズッカの言い分に、キルシェは押し黙る。
口をへの字に曲げて自分を見上げるキルシェに、ズッカはたまらず視線を逸らし、頭を掻きながら言った。
「宿の店主が言ってただろ。悪魔はもう目覚めてるらしい……いつ街が襲われるか分からねえんだ」
「お前と寝たら、俺は半日は起きられねえんだよ」
「……分かったよぉ」
キルシェが頷くと、ズッカも表情には出さないが、安堵した様子で彼女を部屋に入れた。
じゃあな――そうズッカが言いかけた、刹那。

「!?」
耳を劈くような悲鳴が、宿の外から聞えた。
慌ててズッカは自身の寝床となる部屋に入り、窓の外を見た。
(――何だ、あいつは)
ぞくりと背筋を冷たいものが走る。
窓の外、闇の中で微かに月明かりに照らされてなお、それの姿は見えない。
しかしその手に持った、見知らぬ女の首だけが不気味に明るく見えていた。
深く暗い澱んだ闇の中で、剣呑な光を湛えた瞳がぼんやりと浮かんでいる。
(まさか、奴が)
上級下級問わず幾度も悪魔を殺してきたズッカにとっても、この威圧感は初めてだった。
相手の姿形が分からないという恐怖が、ズッカの心臓の音を早める。
「………」
奴は暫しズッカを見つめていたようだったが、やがて女の首と共に闇の中へ消え去った。
間もなくして悲鳴を聞きつけた人々が、首のない女の死体のもとへ集まってきた。
それを見て悲鳴を上げる者、十字を切る者、泣き崩れる者――真夜中の街が微かな混沌に飲まれていく。
――はじめは金が目当てだった。
しかし、奴を目にした今、ズッカが奴を倒す目的は金ではなくなっていた。
人助けのつもりは毛頭ない。ましてや英雄になる気もない。
(くそ……)
ズッカは歯噛みした。
獲物を目の前に指一本さえ動かせなかったという屈辱。
今のズッカにとって奴を倒す目的――それは、悪魔狩りである自分のプライドのためだ。
「野郎、絶対に殺ってやる」
ズッカはそう吐き捨て、どかりと硬いベッドに腰掛けると、得物の鉄棒を握り締めた。


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