飃の啼く…最終章(後編)-9
――あなたと共に戦いたいのです。青嵐様!
――あなたは、先代のようになってはなりませんよ、颪……
――私は喜んで狗族の血でこの手を汚しましょう。二度と日向に顔を向けること能わずとも……
――青嵐の、恥さらしめが!
――この身を、狗族の明日のために捧げるは本望です。私を、どうかその実験にお役立てを……
――信じていますよ、あなた……
信じてくれよ。南風。だが、おまえに最初で最後の嘘をつくことだけは…許してくれよな。
最後まで彼のそばについていた秋声は、最初から最後までこの計画に反対していた。出来ることなら自分が代わりに、とまで言った。秋声は骨の髄まで青嵐会の狗族だ。
しかし、思えば九尾の狐が死んだときに、青嵐会も死んだのだ。憎しみにまみれ、敵の殲滅を第一の目標に掲げた血塗られた組織…。それをこの手で終わらせることに、彼は誇りを感じていた。
「さくらにはこのことは言うなよ。あいつ、きっと死ぬほど気に病むからな…俺は間抜けだから、お前を助けに行く途中で橋から滑って落ちて、首の骨でも折っちまったんだって言っとけ」
南風様には。そう聞く秋声に、青嵐は顔を赤らめていった。
「お前に言伝なんか頼めるか!」
そして、自分の額を覆っていたハチマキを解いて手渡した。これを渡せば、あいつには分かると言って。
重い一撃が、青嵐を突き飛ばす。アスファルトに転がる身体にはもう、あまり力が入らない。起き上がろうとする隙の一瞬を突いて、幾つもの触手が、棘の雨のように青嵐の体を、背中から貫いた。
「ひゃははは!どうしたぁ!“今まで”の奴とは違うんだろ!!」
青嵐の体を貫いた棘は、昆虫を標本にするピンのように、彼を地面に磔にした。吐いた血が、アスファルトに吸い込まれていく。
ひゅうひゅうという危うい呼吸音のほかに、青嵐が発する音はなかった。顱は、自身にもかなりの損傷を認めながら満足げな笑みを浮かべて青嵐に近づいていった。
「おい、お前ら、先に行って犬と人間を殺しとけ…害はまぁ、なるべく殺すなよ」
彼の背後で待機していた澱みたちは、先に進んで八条さくらと飃を殺すのを待ちわびていたので、その命令を聞くやいっせいに進みだした。その喧騒をよそに、顱はまだ、勝利の余韻に浸って青嵐をいたぶっていた。
「どうしたよ、え?もう終わりか?」
その時、ぼそ、と、青嵐が何かを口にした。