投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 640 飃(つむじ)の啼く…… 642 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

飃の啼く…最終章(後編)-5

「誰だ?」

飃が問うと、その影は言った。

「さびしーぜぇ…俺の名前を覚えていねエなんざ。飃さんよぉ…」

ゆっくりとこちらに近づいてくるにつれ、その顔が見えてきた。嬉しそうに目を細める青白い顔。眼窩は落ち窪み、頬はこけ、濃厚な陰がそこにさしてまるで骸骨のようだ。顱(どくろ)。それがこの澱みの名だ。握った手が汗ばむ。それを感じたのか、害がギュッと、さくらの肩を掴んだ。

「てぇことは、やっぱりあの話はうそかよぉ…雑魚共には丁度良い目くらましになったようだがな?良〜いご身分だぜ。お二人さんよ!」

芝居がかった様子で、顱は言った。飃は黒い外套を脱ぎ捨て、静かな声で言った。

「…黙ってそこを通す気がないのなら、さっさとかかって来い」

軽くあしらわれたことに腹を立てたのか、顱は声を荒げた。

「けっ!気の短ぇ野郎だ!俺の話を最後まで聞きやがれ!殺す前に聞いときてえことがあんだ…。害を見なかったかどうか、な」

さくらの背中で、害は幽かに体を震わせた。

「ん?」

さくらは一歩後ずさったが、もう遅かった。顱の目は、さくらの背中に負われている害を捕らえていた。

「おいおいおい……聞くまでもねえじゃねえかよ…親父の言いつけを破って脱走したと思ったら…狗どもにあっさり捕まえられたってわけか!」

これだから実験体は、と顱は吐き捨てるように言った。

「まぁいいや、親父がお前に用があるんだと。来い」

害は答えなかった。

「おい!お前ならそんな女一匹殺すのなんざ訳はねえだろ…来い!」

害は、首をふった。

「なにぃ…?」

彼は、さくらの背中から下りると、きっぱりとした声で言った。

「僕は捕まえられたんじゃない。自分の意思でこの二人に同行しているんだ…父上には悪いが、この二人は僕が本陣まで連れて行く」

害は、そういいながらゆっくりと顱に向って歩いた。さくらはその背中を見つめながら、不意に、彼に澱みの力が戻ってきたように感じた。いや、澱みの力と言うよりは、純粋に、力と呼ぶべきなのか…どす黒い邪悪な影は、彼の回りには見えなかった。

「血迷いやがったのかよ。出来損ない」

「僕の獲物だ。僕が父上のところまで連れて行く…それだけだ」

顱は激昂した。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 640 飃(つむじ)の啼く…… 642 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前