飃の啼く…最終章(後編)-33
「貴方は…なんで…!」
さくらはいつものように、へへ、と笑った。
「言った、でしょ…」
暖かな血が、ぽた、ぽたと零れ落ちる。
「私…仲間を見殺しに…しな…って…」
黷の触手が引き抜かれた。
八条さくら。盾持つ少女は、ゆうの腕の中にゆっくりと、倒れこんだ。
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――お前は何をしたんだ、さくら…
飃は疾駆していた。疾駆という言葉ですら追いつけないほど、彼はものすごい勢いで階段を駆け上った。心は痛いほどに、さくらの名を呼び続けている。
――何度でも助けてやるから。何度でも命を懸ける。何度でも、何度でも、手足が千切れても、お前を助けにゆく。さくら、だから、今度もお前を助けさせてくれ。
助けさせてくれ!
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飃の村でこの光景を見ていた者は言葉を失った。言葉を失い、ただ、ただその場に立ち尽くし、その光景を見ていることしか出来なかった。朔が小さく呟いた言葉が、偶成のように静まり返った村に響いた。
「嘘だ」
それが、衝撃のあまり感情を失っていた村のものを呼び覚ました。一人、また一人と、嗚咽を漏らしてしゃがみこむ。
「嘘だ!嘘だよこんなの!ねえ!?」
朔は、傍らに立つ坊主の袈裟にしがみ付いた。彼もまた涙を流しながら、彼女の問いに答えることは出来なかった。
「本当だよ、小さいの」
ふらりと現れた覚義が言った。その言葉には悲しみは無かった。しかし、覚悟を決めたような力強い目には涙が浮かんでいた。
「覚義殿…」
声をかけた油良に、覚義は向き直った。
「私をここに送ってくれ」
「何じゃと!?」
油良は声を荒げた。