飃の啼く…最終章(後編)-17
一瞬後、戦士たちは見なければならなかった。頭部を失った龍が、ゆっくりと落下を始めるのを。まるで自分達の行く末を見せるけられているように…。
あるものは激昂に刃を任せて突き進み、あるものはその場に立ち尽くして龍の死を見つめていた。
「畜生…!!」
カジマヤは吼えた。
「畜生!ここまで来て…駄目なのかよ、何をしても!」
口惜しさにこみ上げそうになる涙を堪える。
晴れていた空は再び雲に覆われ、光は失われた。
―しかし
「駄目じゃないよ、カジマヤ」
神立が、言った。その声に確かな自信を感じて、カジマヤは彼のほうを見た。
「何で…」
言いかけた言葉を、新たな轟音が遮った。
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遡ること一時間前、風炎は突然現れた使者から、“言伝”を賜った。
――このまま安易に戦士たちが敵の本陣に近づけば危殆を招く。澱みの首魁には策があるようだ。水鏡を用いる蛇族に、幻術を用いる狗族がいないかどうか聞いたところ、そなたは狗族一の幻術使いであると言う。そこで頼みがある―
雷獣はそこで言葉を切って、後は自分の言葉で告げた。
「龍を降臨させてくださいっ。飛び切り大きくて、力強い龍を!」
「囮にするというわけか?」
雷獣は元気よく、何度も頷いた。なるほど、青嵐は食えない男だ。風炎は思った。本当にこんな展開を想定していたのだとしたら、あの男に適う策士など、この世に存在しないだろう。
「もう一つ、お知らせが在りますっ。貴方様の奥方も、あの塔に居られます」
風炎は危うく雷獣の肩をがしっと掴みそうになった。感電する危険に気付かなければそうしていただろう。
「生きているのか?」
雷獣はまたも、元気よく頷いた。
「ええ、一緒に囚われた人間二人と一緒に監禁されては居ますが無傷ですっ」
風炎は安堵のため息を漏らし、そして微笑んだ。
「旭光と言ったな?」
風炎は曇り空を仰ぎ、だれであれそこからこっちを見ているであろうものに、感謝に満ちた視線を向けた。其のまま、目を閉じてあらゆる力を、幻術を作ることに集中させた。
「目を見張るほどの、立派な龍を出現させてやる…!」