飃の啼く…最終章(後編)-10
「ああ?!何言ってやがる?」
青嵐を、顱はさしたままの触手でぞんざいに持ち上げ―――その笑顔が凍りついた。
青嵐の手に、珠が収まっている。
そして、青嵐は笑っていた。
「ああ、終わりだよ。澱み」
「この…畜生めが……っ!!」
空に飛んで逃げようとする顱は、身動きが取れなくなっていることに気付いた。
「何…!?」
青嵐の体に刺した棘が、青嵐の呪い文字によってがっちりと固定され、青嵐自身も、呪い文字で地面と自分とを繋いでいた。
「クソッ!放せ!放せえぇえ!!」
顱は狂ったように暴れた。しかし、もう手遅れだ。
「―――あばよ」
青嵐が珠を地面にたたきつけて、その中に封印された九尾の狐の毒気を開放した。
彼のかすかな呟きは、澱みの悲鳴と怒号にかき消された。
――南風、ごめんな。
++++++++++++++
「青嵐―っ!!」
爆風が巻き起こり、大群の澱みが溶けるように塵と化した。
南風は、青嵐がその大群に囲まれるのを確かに見た。
心臓が、息が、時が止まるような、恐ろしい衝撃の中で、南風は必死に彼の名を呼び、そして疾駆した。
―いや、嫌よ。置いて逝ったりしないで!
秋声が彼女に手渡したのは、紛れもなく青嵐の鉢巻。そして、その折たたまれたそれをひらくと、白いカーネーションの花びらがハラハラと散って落ちた。
“私の愛は生きている”
そう。それが花言葉。
南風は言葉を失って立ち尽くした。それから、一目散に、黒々と立ち上る煙の固まり目指して走り出したのだ。
―あなたは私に約束したのでしょう!だからこの羽織を贈ったのではないのですか!
その背中に翻る羽織は、桑の奇妙な花と、血のように紅い果実を描いている。
“共に死のう”
その言葉を秘めて。
爆風の威力は凄まじいものだった。それは後から来る澱みをも巻き込んで、ビルの根元で戦っていたほとんどの澱みを消滅せしめたのだ。澱みを追ってきた狗族は言葉を失った。高架道路の入り口は黒煙のような澱みの塵に包まれ、うかつにその中に飛び込めば、前後不覚に陥りそうなほどだった。
南風は、周りの制止を振り切ってその中に飛び込んだ。