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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-9

「もう、終わりにしますじゃ」

「終わり?何を…」

言いかけて、はっとしたイナサは彼の目を見た。喜びと、悲しみと、ゆるぎない覚悟の宿った目を。

「わしらは、ここで果てます」

「いけません!ここで皆が死んだら、一体残された神は誰がお守りするのか!」

老狗族は微笑み、力強い手でイナサの残されたほうの腕をつかんだ。そして、持っていた笛を一度、長く、強く吹いた。イナサが手を振り払う間もなく、最後の笛が吹かれてしまった。

「なんてことを…!」

「そなたも…もう分かっておいでじゃろう。我々に、守るべき神は居らぬ…」

狛狗族の詠唱が、ためらいも無く調子を変えた。厳かに、勇猛な調べ…失われた力強い歌声が、消えかけた火に油を注いだように燃え上がった。彼らは死ぬ覚悟を固め、その準備を始めたのだ。それを止めるすべは、イナサには無かった。

「しかし!」

「神の息づくこの国は、死のうとしておる…われらの侍った神や我らの護った神の寄代は、妖怪に身を落とし、消え果て、打ち捨てられてしまったのじゃよ」

イナサは尚もすがりたかった。しかし、すがるような希望が、もはやここに、彼らにはないことを痛感するだけだった。

「…御労(おいたわ)しい…それに、口惜しくてなりません…!」

「優しいの、イナサ殿は…」老狛は微笑んだ。

「しかしな、我らは皆、こうして逝けることが幸福なのじゃ…神と共に斃れることも出来ず、自らに手をかけることも出来ぬまま憂き世を生きるだけだった我らが…こうして、素晴らしい死に場所をえたのじゃからの」

イナサの目からは涙が流れていた。老狗族の傍らに膝をつき、拳で砂をつかみ嗚咽を堪える肩が震えていた。

「なれば…なれば私もお連れください!」

「なんと!馬鹿なことを申すでないぞ。そなたは若い。そして健康じゃ」

子供のように泣きじゃくりたいのを堪える彼女の頭に、傷だらけの老爺の手が乗った。

「お行きなさい。そして命の限りに生き抜いて、平和な世を見届けるのじゃ。あなたの子供に、我らの戦いを伝えてくだされ」

言葉を失うイナサと、それを優しげに見つめる年老いた狗族の二人の元に、大和が息せき切って駆け込んできた。

「イナサ!なんか変だ!狛狗族たちが急に…」

そして、泣いている彼女を見て言葉を切った。

「お若いの。戦うことの出来る全ての狗族をつれて、出来るだけここからはなれなさい」

その声は掠れていたが、揺ぎ無かった。

「おさらばじゃ」

「嫌です!私も残る!」

「イナサ」

大和はイナサの腕を取って連れて行こうとした。彼女は大和の手を振り払い、その場に残ろうと暴れた。


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