飃の啼く…最終章(中篇)-3
「なぁ、お前、結局何の狗族なんだよ」
「だから、当ててみろって」
戯れに、そんな会話も交わすことが出来るほど、この状況下で彼らの距離は縮まっていた。
「んー…」
相変わらず暗闇に目を凝らして敵を警戒する野分の横顔を、真田はじっと見た。冗談を言っていない時の凛とした表情。金色の目、鉄(くろがね)色の艶やかな髪の毛。澱みや狗族を“正しく”見るためにかけられた術のお陰で、よく動く銀色の耳も見えている。
「オオカミ?」
「正解―よくわかったな!」
「まぁ、狐は優雅なイメージがあるし、狸ならもっと愛嬌があるだろうし、シーサーとは全く違うし」
「……何が言いてえんだよ」
そして二人は静かに笑った。
「小夜とは昔からの知り合いか?」
「ああ…まぁな」
仲が良さそうに見えるから、てっきり饒舌に色々話してくれるかと想って振った話題だったが、彼女の口は重かった。それきりしばらく沈黙が続いたが、真田は聞いた。
「ずっと聞きたかったんだけどさ」
「何だよ、五月蠅いなさっきから!」
五月蠅がって居ないことは口ぶりからわかる。そのことが確信できるくらいには相手のことをわかっている。何故かそれが、真田には嬉しかった。
「なんで俺たちの護衛なんかやってんだ?本当なら、皆みたいに戦いたかったんじゃないのか?」
―戦いたかった。
その言葉が、ちくりと野分の心に刺さった。彼女らは戦闘に出くわすたび、真田と河野の安全を優先してそこから遠くへ逃げなくてはならない。しかし、後に残した仲間の安否を気にして、剣の柄を握ったまま何度も振り返るところを、真田は見ていたのだ。
「誰かがやらなきゃいけない仕事だろ」
話はそれで終わり。という口ぶりだったので、真田もそれ以上追求できなかった。しかし、しばらくの沈黙が続いた後、野分は再び口を開いた。
「青嵐に直々に頼まれちゃあさ…断れねえし」
じゃあ、やはり好きで護衛などしているわけではないのだ。真田はちいさく。
「そうか」
と言った。
「ま、思ってたほど退屈でもねえけど」
「え?」
野分が立ち上がった。