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『鎌倉八景〜天園ハイキングコース〜』
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『鎌倉八景〜天園ハイキングコース〜』-1

北鎌倉駅〜建長寺〜ハイキングコース〜鎌倉宮〜鶴岡八幡宮〜鎌倉駅


「一緒に行きませんか」と言い出したのは、日向だった。
でも最初に鎌倉に行きたいと言い出したのは、多分、私だ。
小学校の遠足で行ったあの土地に、久しぶりに行きたくなったのは、「そうだ京都に行こう」というCMを見た所為だった。
京都まで行く暇はない。しかし、それっぽい雰囲気は味わいたい。
そう思って呟いた「鎌倉へ行きたいなぁ」という独り言に、「一緒に行きませんか」と日向は言ったのだった。

日向と私は別に仲良くない。
ただ大学のゼミが一緒だというだけだ。
そして、たまたま「鎌倉へ行きたいなぁ」と呟いた飲み会で、隣に座っただけだ。

私は、新宿から湘南新宿ラインに乗る。
平日なので、渋谷で人がどんどん降りていき、グリーン車でなくても楽に座れた。
特にやることもないので、フリーペーパーを読みながら時間を潰していると、あっという間に30分が経ち、日向が横浜から乗ってきた。

「七瀬さん。」

電車の時間のみを告げていただけで、どこの車両に乗っているか言っていなかったのに、日向は私の乗っている車両の止まる場所でちょうど待っており、それが今回の旅の不穏さを物語っているかのようだった。

彼女は、ジーンズと、汗をよく吸いそうな薄いピンクのTシャツの上にチェックのシャツを羽織り、登山靴をはいていた。

「北鎌倉で降りませんか。」

私は特に、どこに行きたいという計画も立てていなかったので、

「鶴岡八幡宮に行ければ、それでいいよ。」

と適当に頷いた。

言葉どおり北鎌倉駅で降りると、中年女性がたくさんいた。
大学生らしきカップルもぼちぼちいる。
しかし、私たちのように社会人同士の女同士というのは、なかなかいない気がした。

駅からすぐの円覚寺を通り過ぎる。紫陽花寺明月院を通り過ぎる。それから歩くと建長寺。その前まで来た時、日向は今まで黙っていた口を開いて「行きましょう」と指を指した。
反論する必要もないので頷き、入口で300円を払い中へ入る。
彼女はまるで何度も来たかのように迷いのない足取りで、歩き始めた。

私たちは、いや、私は何故、こんな仲もよくもない後輩と、二人で、喋る事もなく、鎌倉なんかにいるのだろうか。
とても後悔していた。


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