飃の啼く…最終章(前編)-25
「シーサーですよ。背が小さいし、髪がくるくるしてて赤いでしょ?」
「へぇ」
へぇ、じゃねえよ。と生真面目な真田は内心思った。
「じゃあ、あたしは何狗族だと思う?当ててみ?」
野分が言った。真田は、鏡に映る野分の久しぶりにくつろいだ表情をみて、何と無く悪い気分じゃないような気がしてきた。
―ん?
「おい、何だと思う、真田」
河野が真田に問いかけるも、彼はいま、鏡の表面にある“何か”を必死に読もうとしていた。
「どうした?」
「なんか、書いてあるっぽい」
彼は鏡に向って息を吹きかけた。浮かび上がった字は大きい文字で書かれていて、彼一人の吐息で現れたのは
―――現――
だけだった。
「なんだこれ!」
4人は声をあげ、それぞれが四隅から順々に息をかけていった。
「これ…!」
―現在、敵本陣に近づくため南下中。8/19 PM20―
「これ何だ、誰が書いたんだ?」
「ちょっと待って」
小夜が洗面台に乗り出して、隅の隅に息を吹きかけた。
―S、T―
「おい、これまさか…!」
野分が歓声を上げそうになる。それを小夜が冷静に制した。
「しっ!近くに何かが居たら聞かれちゃうよ!」
「でも、生きてるならなんで名乗り出ないんだ?」
野分が言った。
「皆絶対喜ぶし、士気も上がる。だろ?」
「潜入って書いてあるだろ」
真田が言った。しかし、彼自身も考え考えの風ではある。
「つまり、自分達が死んだと思わせたかったってことじゃないのか?」
「味方の士気が落ちる危険を冒してまで…」
「もしかして、罠じゃないのか…?」
河野が呟いた。しかし、野分と小夜の士気だけは目に見えて上昇していた。
「絶対死んでなんか居ないって信じてたよ!」
「何とかして皆に伝える方法は無いかなぁ」
「駄目だよ。口の軽い奴が居たら、絶対喋っちまう」
「拷問されたら、きっとどんなに口が固くても話しちゃうだろうしねぇ」
その様子を見ながら、我知らず真田は微笑んでいたらしい。