愚かに捧げる5-2
それからは父に呼び出されなくても、女性たちから連絡が来れば欲望の赴くままに体を
重ねる日々が続いた。
一方で、父に追いつかなくてはという意識は今まで以上に強くなっていった。
父に捨てられた訳ではなかった。でもいつまた見捨てられるか分からない。
母は日中は食品レジのパート、夜は準看護師と忙しい。
高学歴で芸能プロダクションを営んでいる父は女性に困ることがないらしい。
つまらない女はトイレで一発やってつまみ出すんだと豪快に笑っていた。
敏樹は進学校に進み、昔父がやっていたというサッカー部に入った。
父の出身校である大学目指して勉学にも励んだ。
敏樹に憧れのまなざしを送る女生徒には惜しみなく甘い言葉をかけ、ほぼ目論見通りに
体を重ねた。
高校3年生の夏に告白してきた真理子も、そんな女生徒のうちの一人だった。
たまには普通につきあってみるかと思ったのはほんの気まぐれだった。
部活は引退したばかり、大学はほぼ合格圏内だったし、努力の成果か父との連絡も途絶
えてはいない。
母はほとんど家にいないため、もともと会話の少ない弟と狭い部屋に二人でいるのも気
詰まりだ…。
学校から家までの間の暇つぶしを探している時に真理子が告白してきたのだ。
早くに大人の世界を知ってしまったため、逆に女子高生の世界はどんなものなのか知っ
ておくのも悪くない気がした。
だが、つきあってみて1ヶ月もせずに、この子は自分を見ているわけではないと気づい
た。
彼女は「自分だけを愛してくれる理想の王子様」が欲しいだけなのだ。
誕生日に贈ったプレゼントが気にくわないと泣きだしたり、
私服で会った時にシャツにアイロンがかかっていないと無理やり新しい服を買わせたり
、
いつまでも自分を敏樹の自宅に招かないと喚いたくせに、連れて行ったら眉をしかめて
数分で帰っていった。
可愛いなと思う瞬間がなかった訳ではないが次第に敏樹の心は冷えていった。
年が明けて真理子の家に挨拶に行った時に、失意が絶望に変わった。
ちょっと生意気だけど明るくてよくしゃべる妹、遊びたい盛りの元気な弟、
そして明るい冗談を言いあう仲のいい両親。
円満としか思えない真理子の家庭を見て、敏樹は自分のひずみに気づく。
そして自分にないものをすべて持っているくせに、自分に王子様である事を要求する「
カノジョ」を要求に応えながらも憎むようになった。
あれから。
真理子はろくに体も拭かれずに破れた服を着せられて、厚木の運転する車で家に帰った
。
手には延長コードで縛られた跡、服はぼろぼろ、眼は空ろで…。
そんな状態の娘を見て母は悲鳴をあげて病院に連れて行った。
連絡を受けて駆けつけた父が警察に行くと息巻いたが、当の真理子が他人事のように
ただ座っていたために肩を落とすことしかできなかった。
今なら体に残された精液を採取して警察に要請すれば犯人特定することもできるだろう
と医師は提案したが、真理子の母がこれを辞退した。
幸い、すぐに夏休みがやってくる。このまま静かに自宅で療養させてやりたいという意
向だった。