「ストロベリークリーム〜Coffee〜」-1
彼氏に振られた。
寂しいって言うより…
…むかつくっ!
「唯ちゃんどーしたの?眉間にシワ寄ってる」
「杏子さん、失恋ってしたことある?」
私が真剣な顔で尋ねると、杏子さんは綺麗な声で笑った。
「唯ちゃん、失恋したんだー」
「うん。もーやだっむかつくっ」
「へぇ…失恋でムカついたことはないなあ…」
杏子さんは何かを思い出すような表情になる。
杏子さんはやっぱり綺麗だなあ。
杏子さんは元々お姉ちゃんの友達だったんだけど、おとなしめなお姉ちゃんより、私との方がウマが合うとか趣味が合うとかで、最近は私と二人で遊ぶことが多い。
「んー…唯ちゃん『A.S.』っていう喫茶店知ってる?」
「えーえす?知らなーい。おいしいの?」
「私も聞いた話で、実際行ったことはないから本当かどうか分からないんだけど…
…そこの喫茶店、すごくかっこいい男の子が三人でやってるらしいのよ」
杏子さんに似合わない話題に私は吹き出してしまう。
「杏子さんたら意外とミーハーだねえ」
でも、杏子さんの真顔は動かない。
「そういうことじゃないの、よく聞いて。
その三人のうち、赤毛で目つきが悪いのが竜、小さくて可愛い感じなのが紺、眼鏡で優しそうなのが愁っていうんだけどね…」
「りゅうこんしゅう…?風邪薬でそういうのなかったっけ?あれ?胃腸薬??」
お馬鹿を露見する私を無視して杏子さんは話を続ける。
「…でね、竜がコーヒーで、紺がチョコレートで、愁がナッツなんだけど…
…ちょっと唯ちゃん聞いてんの?」
「え?あー…聞いてた聞いてた。りゅうこんしゅうは商品名なんでしょ?」
私の言葉に、杏子さんは叩く真似をする。
「ちーがうって!合言葉を言うと、サービスしてくれるのっ!」
「サービス?何それ?」
「だから…」
杏子さんは私の耳元に口を寄せる。
--えっちなサービス、よ--
「…っえぇえ?!なにそれ?!」
「もう、唯ちゃん本当に私の話聞いてなかったのね。
彼氏と別れてぇ、むかついてる唯ちゃんをぉ、少しは慰めてくれるんじゃないのぉってハナシ」
突然のことで頭が追いつかない。
ただでさえ回りが遅いっていうのに。