Kiss me please!-9
ぼんやり琉を見ていた望の手に冷たいものが当たった。
雨?
見上げると暗く曇った空から次々と雨が落ちてくる。
「望、こっち」
琉に手を引っ張られて慌てて建物の陰に雨宿りする。
「急に降ってきたね」
ハンカチで琉を拭いながら呟く。
「あー。止むかな?」
「そのうち止むでしょ」
それきり会話が途絶えた。
「琉の腕、もうすぐ治るんだよね?」
雨音で聞き取れないぐらいの小さな声で望が言った。
「えっ?」
「ううん、何でもない」
琉を見上げて望は寂しげに笑った。
「望も変だな」
笑って言う琉に
「……そうかもね」
望は琉の肩に頭を付けた。
「望?」
「キスして…」
目を瞑ったまま呟いた望を戸惑い気味に見つめた琉だったが、そっと肩を抱いて触れるだけのキスをした。
「琉らしくないキス…」
目に涙を浮かべてそう言うと望は雨の中に飛び出した。
「望っ!」
濡れるのにも構わず望を追って琉も飛び出した。
ようやく追い付いた頃には二人ともずぶ濡れだった。
「望…。どうしたんだよ?」
雨の中、立ち尽くしている望の後ろ姿に声をかける。
元彼にフラレた時も、無理矢理キスした時でさえも泣いていなかった望が泣いている。
琉はどうしていいかわからず、望を後ろから抱き締めた。
「…もう、琉とキスしない…。出来ないっ」
「何でだよ?」
「琉の事…もう割り切れなくなったよ」
「割り切る必要ないだろ?」
「私にはあったんだもん。彼氏でもない人とキスするんだよ?割り切らないと出来ないよ」
「じゃあ、俺を彼氏にすればいいじゃん」
思いがけない事を言われてつい琉に振り向いてしまった。