風よ、伝えて!-6
「俺の運転、恐かった?」
真理子ちゃんは何も答えてくれなかった。薄暗い灯りの下で、じっと俯いている。しかし、少したってから口を開いてくれた。
「私、こんなことを、ご本人に向かって言っていいのかどうか解りませんけど・・。でも、やっぱり言います。でも、気を悪くしないでくださいね。私、自分が不良のように思えるんです。無茶な運転の車に乗っていたり、暗いプラネタリウムに入ってみたり・・・で。」
俺は少なからずショックを受けた。不良・・・。しかし、つらつらと考えてみるに、そう思われるのが当たり前のような気がする。と、事務員さんが助け船を出してくれた。俺を弁護してくれた。
「そうね、不良よね。でも、そこらの不良とは違うわょ。うーん、真面目な不良ってとこかしら。スネてるのよ、この人。根は真面目なの、私が少し悪のりさせたみたい。だってね、パチンコはやらないし、成人向け映画のエッチな物も見ないし・・・」
「ストップ!そこらでいいよ。しかし参ったなぁ、真面目な不良とは。」
俺はわざと大げさにおどけてみせた。会計さんは失笑したが、真理子ちゃんは笑ってくれない。全然スレていないようだ。純情そのもので、俺は嬉しくなった。
やがて暗くなり、映像が天井に映り始めた。
事務員さんは、説明の合間に色々と話しかけてくる。責任を感じているようだ。しかし俺の耳には殆ど入っていない。唯々真理子ちゃんの横顔を盗み見し、吐息に聞き入っていた。満足だった。
急に明るくなり、二人はサッサと立ち上がった。が、俺は立てなかった。眩しさに目がまだ慣れない。星の瞬きではなく、真理子ちゃんの横顔に目が行っていたために、目を開けられないのだ。
「真理子ちゃん、立たせてて上げて。」という、事務員さんの声にうながされるように、真理子ちゃんの手が俺の肩に触れた。一瞬、電気が走った。鼓動が高鳴り、耳がガンガンする。
車の中で、二人が作ってくれた昼食を摂った。目を合わせることができない俺としては、バックミラーの中の真理子ちゃんを盗み見するのが、精一杯だった。
「お味はどう?」と問いかけられても、正直のところ味などはわからなかった。
「すごくおいしいです。」声の固いことは、俺にもわかった。緊張の極にある。
「どうしたの、さっきまでの威勢の良さはどこにいったの?それとも、美女二人のご馳走に感激しているのかナ?」
「まったくその通りです。のどを通りません。」
「そう言う割には、よく食べてるじゃない?」
事務員さんは俺に声をかけてくれるが、真理子ちゃんは事務員さんだけに話している。
”嫌われたかナ?”淋しい気持ちが襲ってくる。
「あのぉ、リンゴはお好きですか?」と、初めて声をかけてくれた。どうやら、事務員さんに促されたようだ。
「はいっ。」と、思わず素っ頓狂に答えた。その答えぶりがあまりに緊張していたため、どっと皆が笑った。
時計の針は、一時半を指している。事務員さんの希望で、車の少ない方向に下りることになった。こちらの方向は初めてだった。我々のG市ではなく、S市に向かうことになる。出来るだけ長い時間のデートらしきものを楽しみたい俺としてもありがたい。真理子ちゃんの声も聞かず、すぐに走らせた。