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小説・二十歳の日記
【純愛 恋愛小説】

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小説・二十歳の日記-7

「真面目なのネ。」

別れ際に呟いた彼女の言葉に、引っかかるものがあったけど、別にそれ程深くは考えなかった。僕自身がそう思っていたから。だけど、彼女の言う真面目と、僕のそれとは、違う意味のものだった。要するに、臆病者という、軽蔑の意味が、言葉の裏に潜んでいた。

何と言うことはない、映画館でそして帰り道にでも、手を握らなかったこと。別れ際にキスをしなかったからだという。

「まだ、子供ね。」

先輩は言う。今の女性にとってのキスは、友情の印のようなものだ、と。そして又二十歳の年齢でキスの経験が無いのは、逆に不健康だ、と。

僕は宣言する、僕は男だ!君は、わかってくれるよね。あの夜、キスをしたかったょ。だけど、ほんのちょっとの勇気が無かっただけだ。だって、付き合い始めてまだ日が浅いんだ。気心の知れていない相手に、そんな・・。いや、気持ちは通じ合っていたんだよな・・。そうか、やっぱり・・。勇気が足りなかった。けれど・・・。

一体全体、現代はどうなっているんだ。週刊誌は、フリーセックスだの アンチ処女時代だのと、書き立てているが、本当だろうか?

だとしたら、僕は前時代的人間だということか。封建的因習から脱け出せない・・・いや、勇気が無かっただけだ。

僕は、何の為に生きてる?
此れといった目的もなく生きてる?
確かに、”小説を書く”という夢はある。

だけど、小説家とは?それで生計を立てる?否、”売文の徒”にはなりたくない。・・・嘘をつけ!自信がないんだ。

いや違う。自分を裸にしてみたいんだ。
裸ぁ?裸になってどうなる?
風邪をひくのが関の山だろう。

肺炎にかかって死ぬ? あの彼のように。
いやいや、その途中で、蓑を着てしまうだろうに。


  九月八日  (曇り)

どうにもぐずついた天気が続く。今年の夏は、冷夏だそうだ。秋が早いとか。
何だか天気が、僕の感情に左右されるみたに思える。ま、偶然の一致だろう。大体、天気のことを気にするのは、楽しい時、若しくは悲しい時位のものだもんナ。

どうやら、先輩の話に少し誇張はあったものの、半分は当たっていた。やっぱり、物足りないということらしい。僕が年下であること、その為に彼女がリードしなければならなかったこと、疲れたということだった。グイグイと引っ張る男性が好みだということだ。

「冷却期間をおきましょう。」と言われたが、多分駄目だろう。
まあしかし、軽い火傷で済みそうだ。しばらくは落ち込むだろうが、その内時間が助けてくれるさ。・・・だけど、忘れ去る迄の間、どうしたらいい。・・とに角、忘れることだ。

何か、他のことを考えよう。

又ゝ最近、新聞紙上を賑わせているゲバルト学生。どうしたって言うんだろう。或論評で、著名な作家が冷笑していた。その作家を称して、”ファシスト”と叫んだことから議論になったとある。
作家曰くに、その学生は 姓はマルクス名はレーニンと、二人の人物を一まとめにしているとのこと。確か、中学時代に学んだ筈だ。レーニンは、トロッキー(だと記憶しているが)を暗殺することにより、独裁者となり恐怖政治を行った、と。マルクスは経済学者であり、ソ連の共産主義の根本が、ドイツ人マルクスの唱えた「マルクス主義」だというから面白い。

だめだ、やっぱり白々しい。いくら話題を変えても、頭の片隅に残っている。ポッカリと空いた空間は埋まらない。
それにしても、こうした場合に大人達はどうしてきたのだろう。まさか、こんな気持ちが僕だけ、ということはないだろう。


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