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小説・二十歳の日記
【純愛 恋愛小説】

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小説・二十歳の日記-6

(二)
 
  八月二十九日  (曇り)

八月も終わりの日曜日の今日、彼女に連絡を取らなかったことが悔やまれる。同じ会社とはいえ、僕は現場で、彼女は事務所。殆ど顔を合わせない。連絡方法は、いつも彼女から。連絡メモを届けるふりをしてのこと。

最近はタイミングが悪く、いつも僕の傍に誰か居る。内緒の付き合いだからなぁ。僕としては、誰に知られても構わないけれど、彼女が嫌がる。やはり、年上だということを気にしているのか?それとも、僕なんかとの事を知られたくないのか。

僕のポケットの中には、千円札が二枚ある。少し、金持ちの気分だ。チューインガムも入っていた。もちろん、口に入れたょ。でも、空が生憎の曇り空のせいか、噛み心地が悪い。生暖かいコーラを飲んだ時の不快感だ。長くポケットに入れていたせいかも?

何の変わり映えもしない町並み―タバコ屋・八百屋・そしてパン屋。商店街の中心地の喫茶店にでも、行こうとしていたんだ。そんな時、後ろから僕を呼ぶ声が・・・・。えっ、彼女?まさか!と半信半疑に振り向く。

訝しげな表情だっただろう僕の目に、確かに彼女が見えた。ニッコリと満面に笑みをた々えて、彼女が駆け寄ってくる。今までの不快さもどこへやら、僕の顔はニヤけたと思う。

でもホンの少し早く出かけていたら、彼女に会えなかったかも?危ないところだったょ。あの喫茶店のことは、彼女は知らないもんな。そう考えると、ゾッとするよ。でも、今日のデートは最高に楽しかった。
満足!

「智恵子抄」の映画が良かったこともあるけど、何だか、彼女との距離がグッと縮まったような気がする。ピッタリとくっついて、一心同体になったような気がするんだ。

途中、ふと盗み見した彼女のほゝが濡れていたんだ。大きな粒の涙が、音が聞こえでもするように、ツツーッとほゝを伝っていたんだ。僕自身が泣けそうだったから、嬉しい。

帰りが遅くなってしまったので、彼女を送った。でも、何度町内を回ったかなぁ。話が途切れそうになると、又新しい話題が出てくるんだ。おかげで、今夜は足の疼きで眠れそうにない。そうそう、夜空の星がまばたいて―光ったり消えたりして、まるで、星の女神様のウィンクのようだった。

何度、衝動にかられたろう。だけど一度の衝動に負けて、サヨナラになるのは嫌だ。グッとこらえた。

接吻・・・、あゝ!!

彼女の唇に触れる。柔らかい唇に触れる・・。そして、薄く唇が開き、震える歯が小さく音を立てあう。カチッ、カチッとね。その音に恥じらいを感じて、目を閉じたまま・・・。唯、触れ合ったまま。どうしょう、いつ離れていいものかわからない。そのまま・・・。

その内、息苦しさに耐え切れなくなり、鼻で息をしてしまうだろう。そしてその吐息に弾かれるように、どちらからともなく離れる。きっと、耳たぶまで真っ赤になっている彼女は可愛いさ。
そしてしっかりと抱き合って、今度は深く深くキスをする。お互いを強く感じ合う。

あぁあ!
今夜は、眠れそうにもない・・・


  九月一日  (雨)

今日は一日中、雨だ。別に嫌だとは思わない。唯、悲しいだけだ。

『あゝ己は何(ど)うしても信じられない。たゞ、考へて、考へて、考へて、考へるだけだ。二郎、何うか己を信じられるようにしてくれ。』  
*夏目漱石著・「行人」より

僕は彼女が好きだ。すごく好きだ。
会社の先輩から聞いた。彼女が、僕のことを馬鹿にしている、と。


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