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小説・二十歳の日記
【純愛 恋愛小説】

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小説・二十歳の日記-3

  六月十六日 (雨)

今は嫁がれた、高校時代の先輩の言葉を思い出した。
「あなたには、夢がないのね。」

文芸誌の発行で掲載してもらう作品(愛・地獄変)を、読んで貰ったんだよ。その時の言葉だ。当時の先輩はすでに恋愛中で、卒業後すぐに結婚されたらしい。憧れていたんだ。
 
今日、二十歳になりました。そしてある意味、記念日になるかもしれない。会社から頂いた歌謡ショーのチケット。ファンというわけでもない、演歌歌手のショーを観てきた。良かった、ホント素敵だった。

課長に、感謝、感謝!


  六月十八日  (晴れ)

あれ程に降り続いた雨も、昨夜の内にすっかり降り尽くしたらしく、眩しいばかりに太陽が輝いている。

今日という日は、まったく素晴らしい。何だか、周りのもの全てが輝いて見えた。何もかもが楽しい。道路のあちこちの水たまりの中に映っている、青空。石を蹴ると、ポチャン!と、音を立てて青空が歪んだ。

昨日までの僕、まるで僕ではないような・・・。いや、今日のこの僕が僕でないのかも。僕のことを口舌の人、と決めつけていた先輩でさえも、今日の僕に驚いていた。

これ程に楽しいものだとは。・・・けれども、結局片思いに過ぎない。唯単に、客席の中の一人にすぎない。いや、この僕の存在さえ知らないんだ。何てこった!

(一)

  六月三十日  (曇り)

決して恨みになどは思わない。それが当然だと思うんだ。

でも、悲しいんだ、情けないんだ。手紙=ファンレター?それともラブレター?=を出して、今日か明日かと待ち焦がれ、十日目の今日返事が来た。いや、手紙の軽さを怒っているんじゃない。三十枚近くに及んだ手紙に対する返事が、一枚の便箋に盛り込まれていた。そのことを怒っているんじゃない。手紙を書くことが苦手の人だろうさ。それはいい。

時候の挨拶に始まり、あの舞台の感動、そして彼女に対する激励。ここで止めておけばいいものを、ここで文通をしたいと言えばいいものを。

つい、少女雑誌に連載された漫画の内容をダラダラと書き綴ってしまった。確かに、無名の歌手が大スターになるまでの紆余曲折が描かれ、真心の大切さを高らかに謳い上げてはいた。けれども、現実とは余りにもかけ離れているだろう。第一”釈迦に説法”じゃないか。

それに何よりも、男たる僕が、少女雑誌を読んでいることからして・・・。

仕方ないさ、断られても。だけど、偏執狂と思われたのかもしれない。さも迷惑だ、とでもいうような文面。そんなんじゃない、断じて!純粋に、ファンになったんだ。応援したいんだ。

よし、もう一度だけ出してみよう。誤解されたままじゃイヤだ。誤解?・・・嘘を付け!


  七月一日  (雨?)

とうとう雨になった。ぐずついているとは思ったが・・・。梅雨なんだ、仕方ない。天気予報では、明日の筈だったのに。

だけど、雨の中の紫陽花はきれいだ。雨に打たれてる花を見てたら、今にも蝶々が飛びだしてきそうに思えた。白・紫・黄・・・、色んな色の花があって。皆がそれぞれに個性を持っているくせに、キチンと紫陽花の花になっている。面白い!

いいんだ、もう。すぐに返事をくれたんだ。もういいんだ。・・・・。
いいんだ、誤解がとけただけでも。別に強い願望でもなく、できれば・・・という気持ちだったんだから。


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