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小説・二十歳の日記
【純愛 恋愛小説】

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小説・二十歳の日記-10

(四)

  十二月二十九日  (晴れ)

ビックリした、まったく。半日で片づいた大掃除の後、先輩と世間話をしていたところへ、けたたましく鳴り響いた電話のベル。事務所はもう閉じていたから、現場の電話に回ってきたようだ。

「仕事納めです。誰もおりませんので、年が明けてからお掛け直しください。」

一気にまくしたてて、電話を切ろうとしたんだ。ところが、
「待って!」の声。

チコ?と思ったけれど、まさかだよ。今日は、東北地方に行ってる筈だから。
だけど、チコだった。長距離電話をわざわざかけてくれた。何度も何度も、僕の名前を繰り返して確認してた。

「そうだよっ」て、答えたけれど、多分上ずった声だったんだろうなぁ、僕の声が。

突然の予定変更で、今すぐ来るって。到着が十時頃になるから、駅まで迎えに来てほしいって。短い会話だったけれど、いつものチコらしからぬ悲しそうな声だったなぁ。
今、九時十分過ぎだ、そろそろ出かけなくっちゃ。



  十二月三十日  (曇り)

今、僕が何処に居るか、わかるかい?長い付き合いだったけれど、いよいよ君ともお別れだ。もう、君に愚痴をこぼすこともなさそうだょ。
そんな悲しい顔をするなよ。それとも、楽になった?まだたくさんの白いページが残っているのが惜しい気もするけど、君だって、君の愚痴を書きたいだろうから、その為に残しておくよ。

だけど、訳もわからぬままに君と別れたんじゃ、君も変な気持ちだろうから、少し説明しょうか。そして、本日をもって書き納めだ。
長い間、日記君、ご苦労様でした。
 
昨夜、十時少し前に駅に着いたんだ。そうしたら、改札口で一人寒そうに震えているチコを見つけたんだ。間に合わないと思っていた汽車に、間一髪で滑り込みセーフ。それで、三十分ほど早く着いたんだって。
僕は十時だと思って、ゆっくり出たろう。三十分も待たせちゃったょ。チコ、怒ってはいなかったけど、やっぱり不機嫌だった。でもね、すぐに機嫌を直してくれた。
 
駅前の屋台で、ラーメンを食べた。それからどうしたと思う?ジャ、ジャーン!
チコがね、この町にアパートを借りていたんだ。僕がそこに居てもいいんだって。電話を引いたから、いつでも話ができるんだ。へっへへー!

でね、そのままアパートに直行。ところが、着いた途端にチコはダウン!疲れたんだろうな、ヘナヘナと座り込んだょ。ホント、へなへな、と。それで、水をすぐに渡した。これじゃ、どっちがお客か、わかんないよ。ま、いいか、僕の方がいつもこの部屋に居ることだし。僕のアパートのようなものだから。そうなんだ、引っ越しておいでって、さ。

それから、チコの希望通りに、ベッドに運んだ。抱き上げる力はないから、引きずるようにしてね。重いんだよ、チコ。そう言ったら、怒ったけれどね。


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