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小説・二十歳の日記
【純愛 恋愛小説】

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小説・二十歳の日記-11

おいおい、変なことはしてないよ。正直、初めての女性の部屋だろう、緊張したぁ。まだ家具類は無いけれど、ステレオ・テープデッキ・ギター、そしてレコードの山だ。さすが、歌手だね。そう言えば、楽譜もスピーカーの上に山積みだった。

だけどひどいよな、隠してるんだから。十日位前なんだって、ここに入ったのは。言ってくれれば手伝ったのに。驚かすつもりだったって、年明けに。
 
帰らなくちゃと思って、チコの寝顔をのぞき込んだよ。すごく感動した。だって、綺麗な寝顔だったもん。それでね”サヨナラ”って、小さく声をかけた。そーっと、ドアを開けようとしたら、後ろから天使の声。

「あら、帰るの?もう遅いから、泊まっていったら?」って。
「でも・・」って、逡巡したら
「あら、いいじゃないの。それともぉ、だれかが待っているのかなぁ。」だって。

一瞬、おふくろの顔が浮かんだよ。明日迎えに来るだろう。それ迄に帰ればいいかって、帰るのを止めたわけだ。

そうそう、チコがすごく気にしてる。いつも君を持ち歩いているだろう、だから。見たいと言われても、君だけはチコにも見せられない。今、後ろのチコから隠すようにして書いてるんだょ。
ピッタリとくっついてくるチコの、ほのかなというのかな、包み込まれるような素敵な香に、体が熱くなった。安心しろよ、見せなかったから。

だけど、今日で君ともお別れだ。長い付き合いだったけれどね。十年かな、もう。
本当にありがとう、今まで。そして、ゆっくりと休んでください。ご苦労様でした。


(五)

二月十日  (雪)

冷たい雪だった。風も冷たかった。けれども、外の方がまだ暖かい。
わかっているよ、君の言いたいのは。あれ程君に約束したのに、結局戻って来てしまった。わずか四十日ちょっとだけど、耐えられなくなったんだ。仕方ないんだ・・・
 
チコと別れたのは、正月休みの後だったょ。その後、一ヶ月余我慢した。耐えたんだ。じっくりと、お互いの事を考え続けたけれど、どうしても駄目なんだ。
いや、決して嫌いになったんじゃない。今でもすごく好きだし、会いたい。だけど、駄目だった。耐えられないんだょ。僕が子供なのかもしれない。僕のエゴかもしれない・・・。
今は、自分自身が身の毛もよだつほど嫌いだ。これ程の嫌悪感は初めてだ。今夜は、君に全部話すつもりだ。わかっている。所詮、君は

日記であり、僕の一方的な告白であり、単なる愚痴にしか過ぎないってことは。そうとわかってても・・・・・

あの夜チコは、僕をベッドに寝かせてくれた。チコは、ごろ寝でいいって聞かない。慣れてるからって。僕は、興奮気味だったこともあるけど、何度も起きたよ。
チコは、どういうのかな、スヤスヤと眠っていた。習性なんだってさ。
「いつもは汽車の中で眠るの、宿泊代も馬鹿にならないから。」
スター歌手でもそうらしい。もっとも、倹約の為ではなく時間が取れないということ。

朝、七時頃に目が覚めた。チコはもう起きていた。
”おはよう!”って、笑いかけてくれた。とってもすがすがしそうだった。チコの用意してくれた朝食、パンとコーヒーだったけど、すごくおいしかった。食事の後、すぐにアパートに戻った。管理人のおばさんに書き置きを預けて、チコのアパートにすぐ戻った。


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