飃の啼く…第27章-7
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様々な色の羽織が翻る。陽の光もない、にび色の雲の下、人影絶えた都会の景色の中、肩寄せ合って建つようなビルの屋上で、風にはためく羽織の色はひときわ鮮やかだった。
海から吹く風がビルの谷間で絞られ、勢いを増し、襲い掛かるように轟々と吹いている。ほかより高いビルの屋上には、軍装に身を包んだ軍の君、青嵐会総大将青嵐が立つ。彼の目の前には、艮軍、乾軍、兌軍、巽軍、離軍、坤軍、坎軍そして青嵐軍が平原に居並ぶそれのように結集していた。
壮観だった。
妖怪、神族から堕神にいたるまで人ならざるものが一同に結し、青嵐と、その向こうに在る黒い篭目に守られた塔を見る。全ての戦士たちが、自分の武者震いが皆に伝染しているのを感じていた。
―千早ぶる八十の神々よ!
日ノ本に在る全ての兵(つわもの)共よ!―
青嵐の声は、ビル風の騒音を圧し、否、その轟きに乗じて更なる力を言葉に与えた。
―在りし日の栄を、堪え難き世を偲ぶなかれ。歯牙を削り、爪磨いだ日を省みる無かれ!
輩(ともがら)の骸(むくろ)かき抱くとも、血潮の熱き名残を惜しむ無かれ!
進め!
穢れの塵の、一つたりともこの世に残さぬよう!
進め!
日輪は、沈むとも滅びぬ!神風は、止むとも絶えぬ!
待ち望んだ時は、今を措いて他に無し!
何故ならば是が、我ら国津神、最後の戰!
高天原に在らせられる、天津神も照覧あれ―
その時、吹きすさぶ風にも岩のように頑に動かなかった鼠色の雲が割れ、清らかな光が燦然と彼らの立つビルの頂を照らした。まっすぐに、天から降り注ぐ光に、強張っていた兵達の顔が輝いた。
「見ろ!天が我らを嘉(よみ)している!
進め!奥津城へ!八百万(やおよろず)の兵どもよ、いざ!!」
たちまち、嵐のような風が巻き起こり、強烈なビル風をも吹き返した。
「奥津城まで!奥津城まで!」
軍喚(いくさよば)いの声をあげて、一万の兵たちが風を纏って進軍した。燃え立つような射光の洗礼を受け進む兵士の顔は、戦いを前に神々しい。
かくして、葉月十六日。日ノ本の国津神と、澱みとの最後の大戰の火蓋が切って落とされた。
風はうなりを上げ、軍歌の如く鳴り響き、吹き渡る。
兵どもは咆哮を上げて突き進んだ。
飃の啼く、この戦が原を。