飃の啼く…第27章-5
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―どうせ一生 思いのままに
命短し 悔いなく踊れ
普段の勝気な物言いに似合わず、吹雪は終結した戦士達のあまりに沢山なのに怖気づき、彼らの前に前に姿を出せずに居た。最も、本人はそんな事は認めない。そういうことを指摘するのは年の離れた夫である萌葱(もえぎ)の役割だ。
「いい加減に何か言ってやらないと、彼らはそのままあそこで酔いつぶれてしまうよ、吹雪」
年上の夫の穏やかな物言いには反論のしようがない。狗族といえば、3人集まれば誰かが持ってきた酒で酒宴を始める種族だし、ここ北方に住む狗族たちは、持ち寄るまでも無くあらかじめ全員が酒を持っているので挨拶代わりにそこら中で酒を飲み交わす。
「あぁあもう…あんなに盛り上がったらあたしの話なんか聞いてくれないわよう…」
―おじゃれ篝火 懐かし恋し またと会うやら ササ会わぬやら
「私が彼らの頭の上を飛び回って静かにさせようか」
萌葱は烏天狗だから、跳躍(といっても、ものすごい速さでものすごい距離を進むのだが)して“飛ぶ”狗族と違って自由に空を飛べる。自分の夫が酔っ払いの頭上を飛び回りながら静かにしてくれと叫ぶ姿を想像してから、急いで首を振った。
「いい。あたしがちゃんと話しますから」
とは言え、神楽のときに見たさくらの話しっぷりが羨ましかった。本人が自分の弁舌の才をどう思っているにしろ、吹雪にしてみればあの口と一日交換できるなら、米俵の一つでも喜んで贈呈しようと思えた。
萌葱は、若い妻が青くなったり赤くなったりしながら息を吸ったりはいたりしているのを、優しげに微笑みながら見ていた。顔色は赤で、呼吸はちょうど吐き終わったとき、吹雪がついに意を決して兵士の前に姿を見せた。
「よっ!待ってました!大将!」
「う、え〜と……」
すかさず飛んできた“大将”の一言に、考えていた言葉は全部飛んだ。あわあわと口を開閉する吹雪は、怖気を悟られない内に、どすの聞いた声で一言だけ吼えた。
「往くぞ!!お前達!!」
勇ましい咆哮が後に続き、
吹雪の艮軍(こんぐん)が一斉に東の空へ飛び立った。
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「あの花を 国の土産に一枚欲しや
あげたい心はあるけれど 今は蕾であげられぬ
咲いたらあげます初枝を」
雲をかぶった山肌を見下ろして、南風が小さな声で歌った。
「どの花です?」
若狭が遠慮なく、その後ろから顔を出す。元九尾守の若狭は、九尾守大将だった南風とは10年以上の付き合いになる。主従関係があるとはいえ、お互いに遠慮なく離せる間柄だ。
「あれよ」
南風の華奢な指が指した先にあったのは、鋭い棘葉を持つ、アザミの仲間のコイブキソウだった。優雅、とはお世辞にも言いがたいその花を、
「青嵐に?」
若狭は聞いた。南風はこくりと頷いた。