1・2・3-11
九
次の日は朝から雨で、電車も混んでるし、いい事なしで…
「おはようリコちゃん」
バス通のサヤカちゃん、改札口で待っててくれたのか改札口を出た私に駆け寄ってきた。
「おはよう」
「やだね雨ばっかりで」
憎らしそうに傘を開くサヤカちゃん、ふと動きを止めた。
??
サヤカちゃんの目線の先を追う。
あっ………
今日はなんて日だろう…
私たちの目線の先には、相合い傘の二人……翔ちゃんと涼子ちゃんだ。
…そうだ、もう、あきらめるんだ。傷つく必要はない。
自分に言い聞かす。
「あの二人、本当仲いいよね〜…うらやましい…」
サヤカちゃん、二人を見つめたまま言った。
「……うん…」
私、二人から目線を外し、どうにか声を絞り出し答えた。
頭がガンガンする。もう、帰りたい…
二時間目は美術で移動教室、私は重たい頭を抱えて教室を出た。
その時、ガシャーン。私の後ろで涼子ちゃんが荷物を落とした。
「なにやってんの」
涼子ちゃんの隣にいた友達が教科書を拾い上げながら言った。
私、足元に転がってきた涼子ちゃんの携帯を拾い上げた…
あっ……
「小西さんありがとう」
涼子ちゃん私の手から携帯を受け取りながら言う。
その携帯、私と……翔ちゃんと同じ機種、同じ色だった。
あの時…
携帯ショップで翔ちゃんに会ったときの言葉が浮かんだ。‘こっちの方が色も何種かあるし…―――――るし…’
あれは自分たちもこの機種を買うんだと言ったんだ…それなのに、そんなことも気づかず……
だめだ…本当に頭がくらくらしてきた…
美術室へ向かう間、私の後ろで涼子ちゃんと友達が翔ちゃんの話をしてた。
「北原のメルアドって、涼子の誕生日だよね」
え……
「え?どうかな〜」
「またっ絶対じゃん、ほら」
そう言って携帯を取り出した。
「涼子の誕生日12月3日っしょ、で、涼子のR」
「え〜?」
「いや、絶対だって」
私、美術室に入ろうと戸に手をかけたけど、頭が重く意識が遠くなっていく。
「リコちゃん!!どうしたの、大丈夫?」
隣にいたサヤカちゃん私の体を支えた。
「リコちゃん、すごい熱、保健室いきなよ」
熱?
「付いて行こうか?」
サヤカちゃん、私の顔をのぞき込んだ。
「大丈夫、一人で行くから…」
「うん、先生には言っとくから」
頭がくらくらするはず、保健室で熱を計ったら39度あった。私より先生の方が慌てて、ベッドに寝かせられ、担任へ知らせに行くと言い保健室を出ていった。
一昨日雨にうたれたからかな…
私、熱があることを知って一気に体がだるくなり、誰もいない保健室で眠りについた。
私、保健室のベッドで夢を見た。
そこは保健室なのかどうなのか分からない。
眠っている私の額に翔ちゃんがそっと手を置いた。
「大丈夫か?」
翔ちゃん…
私、熱い手で額に置かれてる翔ちゃんの手を握った。
「翔ちゃん…」
声を出してみた。
「リコ、俺が送ってってやるよ」
「うん…」
私翔ちゃんの手を握ったまま思い切って聞いてみた。
「翔ちゃん…どうして翔ちゃんって呼んじゃいけないの?」
翔ちゃん、座り込んでベッドに顔を置いた。
「何言ってんだよ、いいよ別に、いいよ翔ちゃんで」
翔ちゃんの優しい声が響いた…
だけど、夢はやっぱり夢で…担任の呼ぶ声で目が覚めた。
「大丈夫か?次空きだから送って行くよ」
教師十年目の優しい男の先生で、数学担当、去年やっと結婚できたと聞く。
こっちが現実…
私、先生の車に乗り込みながら校舎を見上げた。三時間目は二時間目と続きで美術だ。きっと翔ちゃんは、私の事なんか考えることなく授業を受けてる。
家のベッドに入った私、ふと涼子ちゃんたちの会話を思い出した
‘北原のメルアドって、涼子の誕生日だよね’
私、起き上がり携帯を開く。
翔ちゃんのアドレス…
syo-oys.r123………rは涼子…123は涼子ちゃんの誕生日12月3日……
私、携帯の電源を切ってベッドへ潜り込んだ。
もう、本当にあきらめよう…他に好きな人を…翔ちゃん以外の人を好きになろう…