「緋色の欲望」-1
しばらくは何事もないような日常が続いた。
平日は学校へ行き、週末は客を取る日々。
ただ、ひとつだけ変わったのは、放課後の時間があるときに、こっそりと森の木陰から“先輩”を覗き見ることがあるくらいだ。
流石に、前回、痛い目にあった舞は声を掛けたりはしない。
ただ、遠くからウサギと戯れる先輩を眺めるだけだ。
これが、恋心なのかは舞は知らない。
季節は移ろい、もうじき夏が来ようとしていた。
***
「ふぅ〜」
舞は小さく溜息を漏らす。
今日は楼主の迎えは遅い。
約束の時間まで潰す術を舞は持たなかった。
宿題もないし、これといった用事もない。かといって、学外に遊びに行けるはずもない。
こうやって、ストーカーのように先輩を眺めていても無意味な時間が流れるだけだ。
舞がきびすを返そうとしたとき、頭上から声が聞こえた。
「いつも、そうやってアイツを眺めてんのな」
見上げて驚いた舞は声を上げようとしたが、伸びてきた手により口を覆われてしまう。
「な…で…」
塞いだ掌から言葉がこぼれる。
舞の口を塞ぐその人物は、今、まさに舞が眺めていたその人だった。
いや、違う。
その人は、相変わらず奥でウサギと戯れている。
ならば、その人と瓜二つのこの人は…。
「兄貴とばっかりじゃなくてさ、俺とも遊んでよ。赤ずきんちゃん」
先輩と同じサワヤカな笑顔であるはずなのに、こちらの笑顔の方が遙かに凶々しい。
ドンッ!!
近くの幹に舞を押しつけると、その人は舞の頬を撫でる。
それは、狼が震える獲物を手慰みに爪先で転がしていたぶるのにも似ていた。
「…アイツが、兄貴が好き?」
ぐぅっと躯を押しつけられ、服の上からまさぐられる。
その行為に馴れきった舞の躯はその程度ですら細やかな反応を返してしまう。
「あの顔が好き?あの声が好き?あいつが好き?」
白いリボンが解かれて落ちた。
あぁ、自分は何度このリボンが落ちる光景を見たのだろうかと舞は頭の片隅でぼんやりと思う。
「アイツでいいなら俺でもいいだろ?顔も声も遺伝子さえも同じなんだから、おまえのココに兄貴以上にたっぷり注ぎ込んでやるよ」
彼は、舞の腹部をねっとりと撫で上げる。
そのまま、背中に回された手がファスナーを下ろすと、舞の制服は地面にストンと落ちた。