気持ちの比例式(Renewal Version)-7
―ポトン
英語準備室に風谷君の雄叫びが響く。
「うぉっしゃー!できた!海星は?」
伸びをしながら風谷君が私に尋ねた。
「できてるよ」
「えっマジ?!」
席を立ち上がりびっくりした目で私を見てきた。
「一緒に職員室に出しに行こう」
「もしかして待ってて…?」申し訳なさそうな顔をみせる風谷君。
「ちょっと先にできただけだよ。行こっ」
「ゴメン!待たせたよな?俺、英語本当苦手で」
「気にしないでってば!」
「だってもう6時30分だぜ?女の子1人で帰るのは危ないからお詫びに俺送るよ。いや、送らせてください!」
「えっ?そんな気を使わないでよ。大丈夫」
「ダメだって」
そういうと私のプリントを取り上げ先に行ってしまった。
「えっー?!わかった!送ってください!」
私が叫ぶと、風谷君が止まった。
「じゃあ玄関で待ってて。俺、出してくるから!」
それだけ言い残して走って行ってしまった。
私は一人トボトボと玄関にむかった。
その途中には数学準備室が…。
自然と私の目は先生を探していた。
いるはずないよ…。
でも、もしかしたらと思って私はドアの窓から中を覗いていた。
「裕也ぁ?こっちを向いて?」
無言で振り向くと…。
ん?っ先生また桜坂先生と一緒にいる…。何だか近くない、2人?
次の瞬間…
やわらかい彼女の唇が重なった。
すぐに離れたと思うと
「もっと…」
掠れた声がでた後は、野獣が美女にキスをするかのように激しいものになった。
―バタバタバタ
『しまった…』
私は何も考えられずその場を後にした。
どうやって玄関までたどり着いたのかも覚えてない。
「海星!」
私は名前を呼ばれたので反射的に振り返った。
「おい、どうかしたのか?」
「えっ?何も」
「涙が…」
「え?」
私は自分が涙してるコトさえ知らなかった。
「えっーと、これハンカチ!使ってないから綺麗だから使って…」
「ぁりが…と…」
「帰ろうか?」
私は頷きゆっくりと歩き出した。
風谷君は何も聞かなかった。
聞かれても答えるコトができないので丁度よかった。
「あっ!犬!ダックスだ」
突然、彼は大きな弾んだ声を出した。
そして、その犬に近付きじゃれあっている。飼い主さんとも楽しそうに何か話している。
ちょっとすると帰ってきた。
「犬好きなの?」
「うん!俺、ダックス飼ってるんだ。めちゃカワイイぜ!今度見に来いよ。」
「うん。ありがと」
私は風谷君の犬馬鹿っぷりを見て笑ってしまった。
「今、犬馬鹿って思ったろ?」
すこし膨れっ面をして私を見た。
「えっ?!」
慌てて否定しようとしたが、時既に遅し…。
「うわぁ、海星思ったな。」疑いの目を私に向けた。
「思ってってない×2!(笑)」
笑いながら答えた。
「でもな、犬飼ったらそんな風に皆なっちゃうんだよ。」
名残惜しそうに犬の後ろ姿を見ている。
「へぇ。そうなんだ」
「とりあえず、今度来いよ!で、勉強も教えてください先生!」
風谷君は手を前に揃えてお願いポーズをした。
ファンクラブの子にとっては最高のシャッターチャンスだっただろうに…
「うん。いいよ。このあたりだから私の家。ありがとう送ってくれて。じゃあね。また明日」
なんとなく風谷君は犬っポイ気がした。誰かとは正反対だけど憎めないものがある。
「おー!気をつけろよ!じゃあな」
本当にほんの少しだけ気が和らいだ。
家に帰ってベットに直行。
目覚めたら次の朝だった。