飃の啼く…第26章-11
「わぁっ!」
飃は、危なっかしげに振り回される彼女の手をとって、自分の胸にしっかりと抱きとめた。
「落ち着け…何も初めて見るわけじゃないだろうに」
「だだだだって…」
上気した小さな体が愛しい。飃はそのまま、さくらを離さなかった。
「つむじ…?」
服がぬれるのも構わず、抱かれるのを拒まないさくらの顎を、飃は上に向かせた。そして、そのまま貪るようにキスをする。お互いの体に戦慄が走り、もっと深く、貪欲に、舌が、吐息が絡みあう。濡れた肩にさくらの指が伸び、濡れた髪を優しくつかむ。
「飃…」
飃は、さくらを壁に押し付けて、崩れ落ちそうになる彼女の腰を捕まえたままもっと深い口づけをした。
―放したくない。
さくらは、飃のぬれた体にしがみ付いて、その熱さに慄いた。腕の中にすっぽりと納まる華奢な体が、熱とうねる様な感情の波に震えていた。
息があがって、キスを続けるのも難しい。呼吸をしているのか、キスをしているのか、分からないほど二人の頭が痺れていた。
さくらの体を抱いて風呂を出て、濡れるのも構わず布団の上で体を重ねる。
首筋をなぞって下りる飃の舌。むき出しの腿をなで上げる手。首筋から背中に回るさくらの手。腿を這う手に従順に応える体の疼き。
「いいか…?」
耳元で囁く言葉すら、体を震わせる。
「…来て……」
さくらにとっても、飃にとっても、体で感じるお互いの体の熱は燃えるように熱かった。一つになる瞬間の、えもいわれぬ高揚感に、さくらの目には涙が滲む。町があまりに静かなことが、よりによって今、さくらの心に浮かんだ。その静寂をかき乱すのが恥ずかしくて、唇を噛んで声を堪えた。それを許さない飃が、唇を嘗めて止めさせた。耳元で、切羽詰った声が囁く。
「堪えるな…己に聞かせてくれ」
そう言って、いっそう深く貫く。さくらは答えるように、声にならない声で鳴いた。
「ぃ、あ…飃…っ!」
乱れるさくらの髪をかきあげる。大きな手が彼女の顔を包んで、その指の間に、涙がすっと吸い込まれてゆく。
「つむじっ…キス、して…!」
飃の手にしがみ付くさくらの手は、渾身の力をこめて握っているはずなのにふるふると震えた。キスと、嬌声と、荒い呼吸。水音と、振動と、熱い衝動。混ざり合って、高まって…
「―あ…――っ」
二人は同時に、長い息を吐いた。