mare-9
「なぁ」
今になって、相方が口を開く。
「なんだよ」
「出来るんじゃねえかな、おれ達にも」
そういいたがるのは分かっていた。俺だってそう考えた。
「死にたいのかよ」
でも俺はそっけなく言った。あの戦い…試合でもない、演技でもない。たとえモニターの中のものでも、本物の戦いを見たのは初めてだった。血が流れ、しかもそれに怯んではいけない。
おれたちには生き延びられない。
「死にたかねえけど…死なせたくもねえし…」
珍しく、相方がぼそぼそと歯切れの悪い話し方をする。
「信じられるか?真田。授業や本の中にしか存在しなかった“カミ”がさ、俺たちの目の前に居て…そんで生き残りをかけた戦いをするって言って…おれ達人間は、とっくに神様なんて信じちゃいねえのに…あの人たちは、おれ達を守るために命をかけようとしてんだぜ…」
―それを言うなよ。
ひぐらしが哀しげに、雲の向こうで去り行く太陽に歌いかけている。
おれ達は靴をはいたまま玄関に突っ立って、多分おんなじことを考えていた。
色んなものが去来する。知ってる奴の顔、いろんな感情、家族の顔、戦わない理由、そして、あの二人の顔。
「お袋や、親父に手紙を出さなきゃな」
「電話じゃ、辛くなるもんな」
ぽつり、ぽつりと、雨の最初の何粒かが地面に落ちるように、言葉を交わした。
「ビデオレターにしようぜ。葬式で流して笑ってもらおう」
「名誉の戦死だな」
「せいぜい役に立って死のうぜ、死ぬなら」
俺達は、履いた靴をまた脱いだ。客間の戸を開けると、野分がいきなりオレに抱きついてきた。
「ピューリッチャー賞だよ、真田!ピューリッチャー賞を取れるビッグなチャンスだぜ!」
それを言うならピューリッアー賞だ。