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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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mare-2

(男、口をつぐんで視線を落とし、しばらく口ごもる。少し言いにくそうに再び話し始める)

心底怯えてたよ。俺は聞いたんだ。警察かに捕まるってことか?って。そしたら、首がもげちまうんじゃねえかってくらい勢いよく横に振ってよ、

「そんなんじゃない」って。もっと怖い…もっとこわい…。とかブツブツ言い出すんだ。ああ、こりゃあヤク中だ、係わり合いにならんほうがいいって来た道を戻ろうとしたんだよ」

(男、カメラに背を向けるが、すぐにまた振り返る)

「こう、振り返ってな…そしたら、小さな声が聞こえた。俺は自分のことを呼んでんのかと思ってよ、で、また振り返ったら…」

(男、ふとカメラを通り越した、撮影者の背後に眼をやる。遠くから聞こえる沢山の悲鳴が、次の男の言葉をかき消してしまう。撮影者が振り返ったせいで映像はぶれて、男の口元だけが画面に映る。その口はこう言っていた。

「あれがいたんだよ」



+++++++++++++



「なあ」

夏らしくないにび色の空が、畳の床に寝転がる俺を見下ろしていた。

「あ〜?」

俺が“相方”と呼ぶこの部屋の同居人、河野肇(はじめ)は、飽きもせずに動画サイトを見てはへらへら笑っていた。

「窓開けるのさぁ、逆効果じゃね?」

ランニングにトランクス一丁という姿で、こいつと夏を越すのは二度目だ。俺のいったことを聴いてるんだかいないんだか、河野はまたへらへら笑った。

「閉めたらもっと蒸すだろ…お前の男臭い匂いで蒸し焼きにされるのなんてやだもん」

何が“もん”だ。気色悪い。とにかくこの暑さのせいでどんな些細なことにもイライラする。蝉は相変わらずうるさい。いっそゴキジェットとかをここいらの木に振りかけてやったら静かになるかもな…俺は舌打ちして寝返りを打った。手が痛くて、団扇すら使う気になれない。

「イライラすんなよ…クーラー買う金使ったの、お前だろ?」

「ちげーよ!お前が前のデジカメ水没させるのがいけないんだろ!」

俺は起き上がって相方をにらみつけた。

「だって、おまえがビニール袋に入れれば大丈夫だって言うから」

女のように唇を尖らせてすねる。確かに俺にも非はあった。海の中を撮ろうと、俺たちがやっとの思いで貯めた金で買ったデジカメを透明なビニール袋に入れて沈めたのだ。


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