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細糸のような愛よりも
【同性愛♂ 官能小説】

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細糸のような愛よりも-1

俺は結局、恋人(おんな)との愛よりも、友人(おとこ)との快楽をとったんだ――



細糸のような愛よりも



第一話 欲しいのは

――もう愛してないんだよね。

そんな彼女の言葉を思い出す。
唇を貪り、揺らめく腰を掴んで、ひたすらに突き上げた。
頭が真っ白になるくらいの快楽を、相手には与えていたつもりだったのに。
俺の胸を叩きながら、彼女は涙を目に浮かべて言った。

――あたしは、いつだって愛されたい。

俺だって誰かを愛し、愛されたいと思っていた。
でも、もう無理なんだ。
とてつもない快楽の味を知ってしまった俺には、愛している筈の彼女とのセックスさえも生温いと思えた。物足りなくなっていた。
だから、がむしゃらに身体を貪った。愛しているの一言もかけずに、貪欲に貪欲に。
俺の元から去って行った時、彼女には俺の気持ちが分かっていたのかもしれない。
俺が欲しいのは愛なんかじゃない――


「いいね、その顔。ゾクッとする」
思わず仰け反った俺の喉元に触れ、笑う。
俺の耳朶に指を這わせ、触れるか触れないかの微妙な線で耳から首筋、顎にかけてをそっと撫でる。
「ん……ッ」
ぞくりと全身が総毛立つ感覚。
俺は、生活感のない部屋のベッドの上で、男に組み敷かれ、声を上げていた。
後ろめたさのわけは、この男――綿貫(わたぬき)の存在。
「彼女と別れたんだって?」
綿貫が、相変わらず俺の頬やら首筋やらを撫でながら言った。
俺は黙り込む。
「………」
「ま、お前ほどの面してりゃ、女はよりどりみどりだろうけどな」
言って綿貫は笑う。
俺は笑いながら身体を撫で続ける奴に、翻弄されるがままになった。


きっかけは、陸上部。
走ることが好きで小中と陸上だった俺は、高校でも陸上部を選択し、入部を決めた。
この学校の陸上部はやる気のない部であったが、それでも走る場所が確保されていることは俺にとって十分だった。
「おはようございます」
高校一年生の春。
入部して三度目の部活だった。
陸上部に所属しているのは、一年男子では俺だけだと聞いていたので、部室に来る人間は全て目上の者だと思っていた。
俺は、気だるそうに頭を掻きながら部室にやってきた男に声をかける。
切れ長の瞳が俺を射抜いた。
着崩した制服と茶色く染めた髪はいかにも軟派といった感じで、陸上部の雰囲気には似合わない気がした。
「おはよ」
男は応じ、ロッカーを開ける。鞄を突っ込み、陸上用のユニフォームに着替えて首にタオルを巻いた。
そういう格好をしても、細い眉と茶髪はやはり陸上部には似合わないと思った。
ふと俺は、男が俺のことをじっと見つめているのに気が付いた。


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