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細糸のような愛よりも
【同性愛♂ 官能小説】

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細糸のような愛よりも-12

「綿貫」
何、と頬杖をついて短く答える。
右手は短くなった煙草を灰皿に押し付けていた。
「お前は人を好きになるとか……愛したことって、ないのか?」
「今日の絹川は饒舌だな」
笑いながら言う、奴のはぐらかすような言葉。
俺は食い下がる。
「答えろよ」
「人を愛したことがないのかって?」
口元をつり上げ、綿貫は肩を竦めるように首を傾げた。
「ないね」
さらりと言う。
「愛でる、ならあるかな」
「めでる」
俺が綿貫の言葉を反芻すると、奴は頷いてから言った。
「綺麗なものが好きなんだ。それと、それが壊れていく様を見るのが」
俺から視線を逸らし、そう言う綿貫の切れ長の瞳――その瞳が妙に冷たくて。
何を睨むわけでもないのに剣呑な光を湛えた瞳に、俺はぞっとする。
「親父自慢の白磁の壷が割れるところとか」
口元だけに笑みを浮かべ、綿貫は続けた。
「お袋自慢のシルクのショールが裂けるところとか」
「……綿貫」
「たとえ、だよ」
再び俺に視線を向けて、綿貫は声を出して笑った。
「綺麗な面が歪むところを見るのは、最高に楽しい」
そしてそう言って、綿貫は俺の頬を撫でた。奴の煙草だろうか、きついメンソールの匂いが俺の鼻腔を突く。
俺の背にぞくりと走る、悪寒にも似た快感。
「ギブアンドテイク、だろ? お前に与える快楽がもたらすお前の歪んだ顔が、俺の快楽を生み出すってこと」
「ややこしい言い方をするなよ」
眉根を寄せて俺は言い、それから少しばかり考えて――躊躇いがちに問うた。
「……麻木とのセックスも?」
綿貫はそんな質問に、意外だとでも言うような表情を浮かべてから、例の嗜虐的な笑みを口元に刻んだ。
この笑みに、俺は何よりもぞくりとするんだ。
今の今まで抱かれていたばかりなのに、また奴を求めたくなる。
「誰であっても、一緒さ」
綿貫はそう言って、やはり人懐こいくせにどこか冷たい笑みを口の端に浮かべた。


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