Stormcloud-18
「僕は、来る戦への援軍を頼みに謁見する、颱の護衛としてここまで来た。門前で追い払われた無礼に納得がいかず、城壁を乗り越えて忍び込んだまでだ」
彼は嘘をついた。春雲との接点が露呈すれば、もっとややこしいことになる。それを防ぐためだと、春雲は思った。そして、もしかしたら、彼女を護るために…?
「無礼はそのほうであろうが!このような行いに与えられるは死罪ぞ!」
声を荒げた寒雲を、神立はじっと見た。なたしても何も言わず、その冷静さが彼を激昂させた。寒雲はつかつかと神立の元へ歩くと、彼の顎を蹴り上げた。
「控えぬか!」
ようやく王が見かねてやめさせた。
「颱とその狗族を牢へ」
春雲は、混乱を極める頭をなんとか押さえつけながら、今起こっていることをしっかりまとめられるようにしておいた。信じるべきは狗族?それとも哥なのか?
「しかし、澱みはどうなのだ?青嵐会の横暴さは、澱みの悪行と由縁があるのか?」
「父上、彼らこそが」
熱の篭った言い方で、香雲が答えた。
「青嵐会の横暴さに抵抗するべく立ち上がったもの達の集まりなのです!」
「なにを根拠に!龍王よ、全て嘘に御座います!」
連れて行かれる途中で衛兵を振り切り声を荒げた颱は、衛兵の槍に肩を叩かれて、黙らされた。切実な彼の表情に目を向けるものは、最早いなかった。
「確かか…?」
王は力なく聞いた。自分で確かめようと言う気概も残っていないらしい。対照的に、力に満ち溢れる香雲の姿は、風雲を味方につけたかのように圧倒的な輝きを宿していた。寒雲が彼を称えるように見つめている。彼だけではない。この場にいる全員が、彼を英雄のように見つめていた。
「寒雲」
香雲は言った。
「お前はかつて、澱みの発生は必然であると、私に言った」
彼は、まるで王のような威厳を備えた声で寒雲に問いかけた。寒雲はおずおずと頷き、そして話し始めた。
「昔から、人間と自然、及び神との間では、それぞれ均衡が保たれていた」
寒雲のたどたどしい言葉にイラついたのか、龍の一人が野次を飛ばす。
「“昔から”?今の世で、自然と神と人間の均衡が保たれているといえるものか!」
寒雲はその野次を待っていたかのように頷いた。
「そう。だからこそ、澱みが現れたのだ…加速する人間の文明化、自然の破壊、信仰の希薄化…かつては、天災が神の言葉を代弁できた。“人間達よ、あまり自然に手をかけるな。神から離れるな”そして、人間の無力さを思い知らせるためにその文明を破壊してきた。そして、それで均衡は保たれてきたのだ」
寒雲の舌は、次第にほぐれてきたらしい。つっかえることも、つまることも無く、その言葉は次第にその場の者達を引き込んだ。ちらりと様子を伺った寒雲に、香雲は大きく頷いてみせた。それに勇気を得たのか、寒雲の語気は強まった。