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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-17

「それだけではないのです!」

香雲の声に、一同が傾聴した。もっと聞きたい、もっと話してくれとせがむような目つきを目の当たりにして、春雲は妙な居心地の悪さを覚えた。

「青嵐会の者が…この者たちがやってきた直後に、雲の外側の門衛を殺しました!」

これには春雲も驚いて腰を浮かせた。龍の中には悲鳴をあげるものもおり、そんな彼らに同情するように、香雲はうなずいた。

「それは…まことか?」

「たった今伝令から受け取った知らせです。証拠はこれに…」



聴衆の視線が、一気にあの水鏡へと集まった。肩口から腹までを一気に切り裂かれた無残な死体だった。それが、外門の地面に打ち捨てられている。

「うそじゃ…」

春雲は、目と耳を疑った。しかし他のものたちは自分の見るもの聞くものをまるで疑わなかった。兄弟からも、民からも信頼の厚い香雲の一言で、龍族は全てを信じたのだ。

「残念ながら、力もつものが更なる力を欲するは世の習いで御座います。青嵐会はこの混乱の時に乗じ、全ての神族を傘下におき、またまつろわぬものには報復を与えると言う姿勢なのです」

春雲は思わず立ち上がって、声を上げた。

「違う、兄上!青嵐はそんなことはせぬ!」

言ってから、皆の視線に気付いた。指さすような、咎めるような目である。春雲は自分の過ちに気付いた。こんどは寒雲が声を張り上げる。

「なんと!いまや穢れ無き我が妹までが、青嵐の毒香に惑わされているとは!狡猾なる敵はこのようにして、内部から腐敗を招き、そして弱体化したところを衝くと言う!」

大きな手振りと劇的な口調は、聴衆を心酔させていた。春雲は爪を噛んで座った。お人形でおつむの足りない阿春が、何を言ったところで人々を説得できないのは目に見えていたはずだ。寒雲たちは、春雲が青嵐と親交を結んでいることを嗅ぎ付け、彼女から反論が飛ぶのを待っていたのだ。そんな彼女を、香雲は哀れむように見た。

「衛兵!」

待ち構えていたように、衛兵が勢いよく階段を駆け上って広間に姿を現した。3人の衛兵に引きずられるように運ばれてきたのは…

「そんな…」

香雲は、騒然とする人々の中を優雅に歩いて、無理やり跪かされた神立の前まで来た。

「お前はいつの間に忍び込んだ?犬!」

寒雲が声を上げた。しかし、神立は冷静に、目の前の香雲の目を見返していた。

「言え!」

自分が引き入れたのだ…この時、春雲の心中では二つの意識がせめぎあっていた。

神立は本当にスパイで、それに気付いた哥が自分を助けてくれたのだ、という思いと…兄の策にはまったのだという思い。信じたいのは哥だったけれど、それでも、彼女の中の何かがそれをとどめた。神立の視線は、詰め寄る哥の肩を通り越して春雲を見ていた。

―真っ直ぐな目で。


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