月夜×殺人犯×二人きり-7
「君は……この家の子供か?通報しないのか?」
矢継ぎ早に問うも少女は答えなかった。寧ろ男の問いに興味はない様子で、少女の視線は女の死体に固定されている。
「私も殺す?」
反対に問われて、男は答えに詰まった。
勿論、殺意はない。しかしこの状況で至極冷静な少女に恐れすら感じた。
「ねぇ貴男はどうして、こんな事したの?」
男の返答を待たずに、ソプラノの声が部屋に響く。
「……それは」
月明かりに照らされた少女の無垢の瞳に、全てを見透かされている気がして男は視線を外すことが出来ない。
「教えて?」
真実を知るべき立場であろう少女の問いかけに、男はゆっくりと口を開いた。
母親が余命幾ばくである事、職場をなくし次の職の宛もない事。
金があればどうにかなるかもしれない、と衝動的に強盗を行い、結果的に殺人の罪を犯してしまった事。
「そう」
淡々と事実を量るような調子で、少女は男の話しに相槌を打つ。
全てを語り終わる頃には空は白みを帯びていた。
「……俺が憎いか?殺したいと思うか?」
気が付けば男はそう訊いていた。男が少女の立場なら、そう思うからだ。
少女の指が男の包丁を指す。
「例えば今その包丁で貴男を刺したって、生き返らないでしょう?だから別にいいわ」
その言葉が男には、酷く哀しく聞こえた。
少女の視線が女へ戻る。それにつられて男も女を見る。
「包丁を持ってる人に飛びかかるなんて、強いのね」
「……あぁ」
「でも貴男の母親もきっと強い筈よ。余命を宣告されたって、子供が職を失ったって、きっと笑って大丈夫、そう言ってくれる筈だわ」
強さを感じさせる凛とした口調が、男に母親を思い出させた。
「けれど貴男が人を殺したと知ったら、きっと泣くでしょうね」
その言葉が男に突き刺さる。
男は母親にいつだって笑っていて欲しかった。けれど結局は余計に悲しませてしまうだけだった。
金があれば、母親は笑ってくれる……本当は違う。男が笑っていれば母親は笑ってくれる筈だ。
「……自首するよ。今から警察に行く」
「そう。ねぇその包丁置いていきなよ。警察に行く前に不審者で捕まっちゃうよ」
少女が笑った。
漸く子供らしい面を見れた気がして、男は何故か安堵感に浸れた。
「ありがとう」
男が最後に少女に声を掛けると、少女はまた小さく笑った。