「瓦解する砦」-1
音もなく車は道を走り続ける。
長く続いた沈黙を破るかのように、運転席に腰を据えた楼主が口を開ける。
「で…何で今日は遅くなったの?」
その声は、普段よりも数段低い。
「い、委員会で」
舞の口が言い訳を紡ぐ。
「へぇ。乳首おっ立てといて?」
楼主の口の端に蔑みの笑みが浮かんだ。
舞の頬が赤く染まる。
先刻の情事の後、慌てて車まで走ったため、背中のホックを巧く留められなかったのだ。
「それに、男の臭いもするね。教師?」
力なく舞は首を振る。
「ふぅん。優秀な“花姫”さんは、生徒相手に時間外営業をかけていたわけか」
車はどんどんスピードを上げていく。
「知ってる?助手席って死亡率高いんだよ」
恐ろしい台詞に、舞の顔が青ざめる。
「…相手の名前は?」
追及の声は鋭さを増す。
「しっ、知りません」
徐々に上がるスピード。
増していく恐怖。
「この状況でシラを切る気?」
滲み出る怒り。
「ほっ、本当なんですっ」
開けた窓から入り込む海風が目に痛い。
目の前の信号は赤。
舞は強く目を瞑った。
キキィーッ!!
躯に派手な衝撃を与えて車は止まった。
場所は停止線と同位。
舞はホッと胸を撫で下ろす。
「事故なんて起こさないよ」
吐き捨てるように楼主は言う。
「ただ、舞にはそれなりの罰を与えないとね」
冷ややかな声音。
「こないだみたいに玩具で遊ぶだけじゃ済まないから」
延びてきた手に制服を擡げていた乳首が捕まれる。
「っ…たぁ」
そのまま乱暴に抓られて、舞の口から小さな悲鳴がこぼれ落ちる。
「覚悟しとけよ」
信号が青に変わった。