Stargazers-20
「いや…俺に出来ることをやるだけなんだ」
ぼそぼそとカジマヤが言った。
「お前に出来ること?」
彼はうなずいた。
「先ず最初に、許すこと。それと、償うこと」
「そうか」
もう一度、うなずく。そして、ゆっくりと地面を蹴って、真夜中の夜空へと消えていった。
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「彼はどこだ…?」
それが、意識を取り戻したスティーブン・リデルの発した第一声であったという。そのあと、医者が入れ替わり立ち代り彼の様態を調べに訪れ、看護婦が甲斐甲斐しく彼の世話をしている時にも、スティーブンはずっと“彼”を探していた。
「きっと神様を探しているんですよ。あの状態からここまで回復するなんて、正に神の奇跡ですからね」
そう、彼の主治医は言った。
まだ足元のおぼつかない父を車椅子に乗せて、アリスは中庭への散歩に父を連れ出した。中庭には、母が大好きだった向日葵の花が、眩しい日差しの中で優しげに揺れている。高台にあるこの病院からは、中庭からも海を一望できる。ソーダガラスの瓶底のような不思議な色の海が、穏やかに、美しく広がっている。
意識を取り戻して1週間が経過した今、医者は満ち溢れんばかりの自信を持って、またすぐに問題なく歩けるようになりますと断言した。本当に神の奇跡ですね、そう言って。
「ねえ、パパ」
「ん?」
「誰を探していたの?ほら、意識が戻った時」
父が探していたのが“She(彼女)”つまり自分ではなかったことに腹を立てているわけではなかった。そんなことは思いつきもしない。彼女が考えていたのは“彼”のことだけ。
「夢を見ていたんだよ…」
息を吐き出しながら、父が言った。アリスは庭のベンチに座り、父と隣り合わせに座れるように車椅子を固定した。
「最初に、歌が聞こえるんだ。聞いたこともない言葉で、聞いたこともないメロディーの歌だ。最初の内は良く聞き取れなかったんだが、何度も同じ夢を見るうちに、だんだんとくっきりと聞こえるようになったんだよ…」
娘が真剣に自分の話を聞いているのを見て、父は少し微笑んでから後を続けた。