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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stargazers-2

「大丈夫か、おい!」

大丈夫ではない。やはり人間は気を失っていた。カジマヤは人間を抱えて再び崖の上へ戻るべく風を呼んだ。水着を着ていない体は重く、気を失っているためぐったりとして抱えるのは容易ではなかった。しかし、自他共に認める事実として、カジマヤのカジマーイは島でも一、ニを争う腕だということがある。カジマーイは、島の狗族の言い回しで「風回し」を指す。つまり、風を回して意のままに操ることにかけて、カジマヤを凌ぐのは村長一人だ。今のところ。兄の苦言に耳を貸すのを拒み続け、彼が言うところの「慢心」を入れ替えなければ、すぐにでも風は彼から離れていくだろうと言うことは、まだ信じる気にはなれなかった。



子供時代から海が近くにあると、溺れた人間に対する応急処置というものも自然に覚える。こちらはカジマーイほど巧くやる自身はなかったが、ベストを尽くすだけだし、何より急を要する。しかし…

「わ…なんだよ…」

仰向けにした人間は、この島にすむ種類の人間ではない。いや、この国に住んでいる種類の人間でもなかった。薬で髪の毛の色を変える(“自然”を愛する狗族には想像もつかない行為ではあるが)事ができるのは知っていた。そして、今目の前に横たわる人間の髪の毛が、そうして変えられたものでないことも解った。一見カジマヤとそう年は変わらないように見えるこの子は…

「あめりかー、か…」

カジマヤは心に浮かび上がりかけた誘惑をぐっと押さえつけ、とにかくその子の上に覆いかぶさって人工呼吸を試みた。こと溺れた人間に対しては、狗族の歌による手当てよりも、人間のやり方のほうが簡単で確実だ。

耳をすませて呼吸音がないことを確認する。額に手を当てて、あごを持ち上げて気道を確保してから、鼻をつまみ、開いた口よりも大きく口を開けて息を吹き込む。肺が膨らんで、仰向けの胸がぐっと上がった。口を離して、胸が下がるのを観て、もう一度繰り返す。

反応はない。

「…ちっ」

焦る気持ちを抑えつつ、肋骨の間に手を置き、開いた左手に右手を重ね、ぐっと押し込む。そのまま一回、二回…四回目に、閉じたままの瞼がぴくぴくと動いて、口から海水が流れ出た。

「ごほっ」

カジマヤはそっとその人の体を横に向けて、吐き出した海水で再び喉が塞がれてしまわないようにした。残った水も吐き出せるように、腹の上のほうをそっと押す。ごほごほと苦しそうに咳をしながらも、この数分間で始めて、人間は呼吸を取り戻した。

「ふーっ!焦ったぁ!」

カジマヤはどさっと地面に腰を下ろし自分自身溺れていたように、深く息をした。

目の前の人間は肩肘をついて上半身を起こし、ぜえぜえと苦しそうに息をした。

そして“彼女”は、カジマヤを見た。

蒼い目で。海のように…吸い込まれるような蒼が、彼を見ていた。

―目の中に海がある。

彼女は、その目でカジマヤに問いかけた。言葉で答えるにはあまりに多くのことを。

そう、まだこの時のカジマヤには知る由もないが、彼女はあまりに多くのことを問いかけていたのだ。


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