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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第23章-7

「どうしても、青嵐会とは手を組めない。」

「…どうして…?」

信じられなかった。そこまで協力を拒む青嵐会の負の部分とは一体なんなのだろう。

「知りたいかね?いや、やめておいたほうがいい。」

そしてやおら立ち上がると、退出を促すように引き戸を開けた。

「いいえ。教えてくれるまで動かない。」

茜が、鋭い目つきで深山氏を見据えた。

「きみ達は青嵐会の側の人間だ…知らないほうが―」

「知らないのはいつだって楽だわ。」

そうするつもりが無いのは、彼にも判っているはずだ。目の奥を覗き込む必要も無い…茜の覚悟は、隣にすわる私にも伝わってきている。

ため息をつくのは彼の癖なのだろう。そうでなければ、私たちはそうとう迷惑な客なのだ。でもまぁ、思わず招きたくなるような客だというつもりも無いけれど。彼はゆっくりと座布団の上に戻り、私たち二人の顔を交互に見てから、左手を差し出した。
「手を載せたまえ。そして心を空に。今から私の記憶にあるものを君たちに流す…」
深山氏の手に重ねる一瞬前、茜が私の手を捕まえて、少しだけ強く握った。安心を求め、また与えるために。


こ おりついた腕…そして炎。煌めく銀の爪と、腕。

ろ うとを滴る水のように、記憶が私の中に流れてきた。

し ぶきと、桶と腕…そして、あの瞳。滴りは流れになり、流れた水が足元から上ってくるような感じがする。

て んじょうを焦っと見つめる、生も死もない、あの瞳。まるで…まるで闇。

「…目を開けたまえ!」
切迫した声に驚いたのか、身体を通り抜ける冷たい感覚に驚いたのか解らなかったが、とにかく私の体は大きく痙攣した。多分その両方だったのだろう。横にいる茜も、ショックをうけたように両手を握りしめていた。あの記憶の断片は何を意味していたのか…禍々しいものであるのは確かだけれど。とにかく、記憶の伝達が最後まで終わっていないのは私にも解る。何か邪魔がはいったのに違いないが、澱みでは無かった。澱みは、神主の名前を呼びながらどたどた掛けてくることも、そのまま部屋の障子を破って殴り込むこともしないからだ。簡潔に言えば、それは坊主だった。そう。坊主である。仏教の。
「こんのクソジジイ!結界何ぞ張りおって何を企んどる!」
袈裟を来たまま、なかば掴みかかるような体制で深山氏を怒鳴りつける彼は、ある映画のタイトルを連想させた。確か「バレット・モンク」。実際に“弾丸坊主”を演じたのはチョウ・ユンファだった。だから、タワシも真っ青になって逃げ出してしまいそうな強(こわ)い口髭を蓄えたこの初老の男とは似ても似つかない。でも弾丸という称号はぴったりだ。
後を追ってきたらしい飃と風炎は―その弾丸が開けた大きな穴を慎ましくも無視して―障子を開けて部屋に上がった。つまり、さっき身体を通り抜けた感覚は結界の破れた時の衝撃だったのだ。
「何をしたのか解っとるのか、この生臭坊主が!!」
神事を司る者にしては迫力が有りすぎるような恫喝が響いた。
「コッチの台詞じゃ、このハゲ!何を企んどる?え?祭りに来た女子供をまとめて閉じ込めて喰っちまう気か!?」
どうやらこの坊主は深山氏が人外のものであるとわかっているらしい。神道は、簡単に言えば自然崇拝が体系化したものだ。妖怪や八百万(やおよろず)の神々も、神道のような自然崇拝に基づく思想の産物である場合が多い。だから後に大陸からわたってきた仏教を布教していく上で、妖怪や土着の自然崇拝と、基本的には相容れないものであったろう。とくに妖怪に関しては、実際に「仏にすがって悪鬼の改心を促す」経というものがある。宗教を布教する際に、一番効果的なのは「敵」を作る事だと飃は言っていた。どの宗教にも「悪」とされるものがあり、その権化として神道は「穢れ」を選び、仏教は妖怪を選んだ。


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