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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第23章-6

「言っただろう…」

ため息をついて眉間を揉む初老の男。彼の名前は深山覚義(みやま さだよし)と言って、私の家からそう遠くないところにある神社の神主をしている。今、神社の境内ではお祭りの真っ最中。人々の活気と壁一枚隔てて、この部屋はまるで通夜でも執り行っているみたいな雰囲気だ。飃と風炎は、神社の番犬さながら鳥居の前で待機している。いや、待機せざるを得ないのだ。鳥居には狗族を退ける強力な結界を張ってあったから。

「青嵐会に協力する気はないとね…もういい加減に…」

「会をそこまで毛嫌いする理由はなんです?狗族が嫌いなの?」

茜の追及は容赦ない。

「あなた、妖怪でしょ?人間の振りをし続けたいから狗族と係わり合いになるのが嫌なの?」

率直な茜の言葉に、深山氏はたじろぎもしない。彼はまた、ため息をついて手を眉間に当てた。そう。深山覚義は妖怪なのだ。私たちの学校にも、人間の姿をしたまま社会に溶け込み、司書を勤める妖怪が居る。そういう妖怪は昔から少なくはない。有名な雪女は、人間の不利をして男に嫁ぎ子供も居たし、狐や狸の類に関してはいうまでも無い。実は妖怪は、意外と身近なところに居るものなのだ。

「きみ達は知らないのだ…。」

気になって、私がおずおずと口を挟む。

「何をです?」

深山氏はふと目を上げて、私を見た。私の顔でも、表情でもなく…目を。いや、もっと言えば、目の奥のもっと深いところに宿る物を見ているのだ。“それ”をされたのは初めてだったけれど、気持ちのいいものではなかった。私が本当に“知らない”ことを確認すると、今度は目の焦点をもう少し手前に戻して私の表情を見た。

「きみ達、青嵐会が本当に真っ当な組織だと思っているわけではないのだろう?」

「真っ当…?」

そりゃ、確かに設立の動機は血なまぐさいものではある。宿敵、九尾の狐の最後を見届けるために何代にも渡って守られてきた“青嵐”の名。それを引き継いだのが私たちの知る颪さんなのだ。

後を継いだ現頭首の颪さんがあれだけユルい性格…もとい柔軟性に富んだ思考の持ち主だと知っている私たちにとっては…青嵐会がそれほど毛嫌いされるようなものだとは到底思えなかった。逆に、私たちが青嵐会について知っていることなんてほとんど無いとも言えるってことなんだけど。

私の青嵐会に対する認識は、九尾の狐を監視するかたわら、人間と妖怪、神族の世界の境界線を踏み越える者がいないか管理する組織、という程度。狗族の縄張りは妖怪(と分類するにしても、神族と分類するにしても)の中で常に人間の近くにあったから、そのポジションを得たのは当然の結果とも言える。澱みに目をつけられたのも、そういう理由があったからかもしれない。狗族はこの国の妖怪にも、神族にも、また人間にも深く関わりあう種族なのだ。

「私とて、瑣末なこだわりを理由にして協力の申し出を断るほど愚かなわけではない…今がどれほど危険な状態かは承知している。だが…」

深山氏は一瞬口ごもり、つかの間目を閉じて、にぎやかな祭りの喧騒に浸った。


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