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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第23章-5

「ちょっとまって…結界って言った?」

目を見開いたまま、立ち尽くす私を飃が強く抱いた。強く。痛いほど。

「お前にはどうすることもできなかった、さくら…逃げ遅れたものは…。」

つまり…逃げ遅れたものは、私が一人の女性と、それを捕らえていた澱みの強力な瘴気に気をとられていた間に…

「こ…殺され…た?」

飃の手が私の頭を強く胸に押し付けた。それ以上考えようとする脳を押さえつけようとするかのように。

「なんとも言えない。だが、姿が見えないことは確かだ。前に見たあの男と同じように、魂を奪われたのだろう。」

店の奥に走っていって、何かの間違いじゃないかと確認しに行こうとした私の腕をつかんで、飃が引き止めた。

「さくら、余計なことは考えるな。今わかっていることだけで判断するんだ。」

「わかっていることは…。」

「死んでいるとは考えるな。生きていることを期待してもいけない。ただ、己たちには2週間という時間がある。それだけだ。」

私は、体の末端がジンジンと音が鳴りそうなくらいに痺れているのを自覚しながら、飃の背中に手を回してギュッと力をこめた。そして、追い詰められていることを今は確かに意識しながら、身を離して飃の目を見た。

「やろう、飃。出来ることはなんだってやらなきゃ。」

彼はうなずいて、確かな足取りで歩き始めた。遠くから響くサイレンに見つからないように静かに、私たちは抜け殻と化した店から立ち去った。



++++++++++++++



―月が出た出た 月が出た 

ヨイヨイ
三池炭坑の 上に出た
あまり煙突が 高いので
さぞやお月さん けむたかろ

サノヨイヨイ―

レコードで聞く音楽がどう聞こえるのか、実際に耳にしたことはないけれど、遠くのほうから聞こえてくる炭坑節の音色は、多分私が知っている音楽の中で一番“レコード”っぽい音だろう。甲高い声が震えて、何と無く郷愁を誘う。

「…くどい!」

三池炭鉱の上に出たお月さんに顔がついていたら、目の前の彼のような表情をしているんだろうな。まさに“煙たい”表情で私たちを見ている。

「せめて理由を聞かせてください!」

煙たい彼の表情に負けじと険しい顔をしているのが傍らの茜だ。お互い、座布団の上に座って入るけれど、どこからか行司が現れて「はっけよい、のこった!」と声をかければ相撲のひとつでもとりかねない気迫だ。


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