飃の啼く…第23章-16
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熱いため息が漏れる。まるで、私の体の中にある炉を燃え立たせる鞴(ふいご)のような、彼の吐息。頬を肌に寄せるだけで、淡い快感が全身を走り抜けてゆく。
時折、理由も起こる小さな笑い。私の些細な照れ隠しも、飃は口付けで塞いでしまう。舌が絡まりあい、鼻から深く吸い込んだ空気には、飃の香りが宿っていた。
私は、ベッドの淵に腰掛けた飃の膝の上に乗って、首に回した手を長い髪の毛の奥に差し込んでいた。
薄暗い部屋の中で、半ば閉じた彼の目は眩しいとさえ思えるほどだ。熱を帯びた、彼の体。布一枚隔てるのすら惜しい。
「触れてくれ、その手で。」
低い響きは、独特の印象を抱かせる。ゆっくりとしたテンポで、重く響くR&Bのような濃厚な官能の響き。シャツのボタンを外す私の手が、言うことを利かない。
「…不器用だな」
言って、飃は片手で私のブラを外した。くすくす笑いがこみ上げて、私はボタンを外すのを諦める。なんとか、胸は露になるくらい外せた。そこから手を滑らせて、胸の小さな突起を撫でてみる。
「これでも不器用?」
小さく震えた身体と、ひょいと下がった耳。私は音を立ててそこにキスをした。
「―っ。」
喘ぎとため息を堪えているのか、少し震えている。数少ない、飃の弱みらしい弱みだ。堪えるからかえって弄ってやりたくなるのに。
見上げた目と目が合う。その、熱に浮かされたみたいな目の奥にあるものを感じたくて、口づけをする。徐々に深く、ゆっくりと奥へ。
「…んっ、ぁ…」
指先が、私の望んだ以上の痺れを引き起こす。私は飃にしがみ付いて、脱がせかけたシャツをギュッと握った。
「あ、っ…」
今、どんな顔をしているんだろう、私。飃を身体の中に感じて、心と体は悦んでいる。飃の髪のにおいは、私と同じシャンプーを使っているのに私とは全然違う。彼の心の奥の、彼に身体に染み付いた森の馨りを、誰にも消し去ることは出来ない。屈みこむ飃の髪をかきあげたままキスするのが好きだ。私の嬌声を唐突に塞いでくる、柔らかい意地悪が。
何かが呼び覚まされる感覚が沸き起こる。
「あ、飃―っ」
呼吸と、声と、キスが入り乱れて、やがてゆっくりと激しく、爆発が起こった。
後どのくらい、こんな風に静かな夜を迎えることが出来るのだろう。眠りに落ちる前に、そんな疑問が浮かんだけれど、答えは重たい霧のような眠気にさらわれてしまった。
宣戦布告の囁きが、時間の移ろうほどに重く、強く、私の心にのしかかる。飃の温かい腕の中で、今夜は、あまり言葉を交わさなかった。