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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The kiss and the light-35

「私が手助けをして差し上げるのだ!女の呪縛から解き放たれた、清浄な世界へ我が同士を導くために!」

「馬鹿野郎!!」

鍵爪を受け止めた手が、怯む。

「穢れているだと…?孕むしか、能が無いだと…!?」

腕に力が入らない。鍵爪は肉を裂くたびに、飆から力を吸い取っていった。

―あの子のこと、愛してたのね。

弱っちくて、強くて、何も知らないくせに、何でも知っている。女は、お前の道具じゃないんだぞ、女は!

「―っ!」

飛び散った鮮血を受けた顔で嗤ったのは、その昔、ロンドンで切り裂き男と呼ばれた男だった。

「所詮貴様も、女の呪縛から逃れられない、それえだけの男だったということだ…父親のほうがまだ骨があったぞ、飆」

男(ジャック)は鮮血を嘗めて、血溜まりと、その中に倒れこんだ飆に背を向けた。



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間一髪だった。

中谷のすぐ後ろに立った男の気をそらしたのは、物陰に隠れていためぐりだった。

「逃げて!」

男の顔にしがみ付いて、めぐりは叫んだ。とっさにドアに向ったものの、そこは既に閉じられていた。後先考えずに間逆の方向に向かうと、男が今、そこから来たのであろう穴が見えた。地下へと続く、細くて狭い穴だった。中谷は意を決してそこに飛び込み、そして暗闇の世界へとたどり着いた。

めぐりはどうなったのだろう。どうしてあの男は追ってこないのだろう。

めぐりはあの男にやられてしまったに決まっている。あの男は、今にも私を追って降りてくるに決まっている。

体中が言うことを聞いてくれなかった。絶え間なく震えていることを証明する、歯のがちがちと鳴る音。でも、心はそうではないことを知っている。怖い。怖いのだ。

もし、この身にあの男の手がかかったら、私は舌を噛んで死ぬことが出来る?あいつに汚される前に?

―否、否、忘却の河にゆくこと勿れ、また 固く根付きとりかぶとを絞りて 毒ある酒を求むる勿れ―

中谷は首を振った。最後の最後まで諦めてはならない。気の狂いそうな暗闇の中で、彼女は自分の目が暗闇に慣れるのを待った。ただし、このにおいには慣れそうにない…生臭さと、妙な薬品の匂いは、検死に立ち会ったりするときの匂いに少し似ている。壁を伝って歩き回ると、何かひんやりしたものに手が触れる。中谷の足元から、頭の上まである、縦に長い容器だった。ガラスのようなその感触に、低い機械の唸りと、幽かな水の音が伝わってくる。その、水槽のようなケースが、1,2…全部で7あった。

―死体が、7つ。

悪寒が指先から這い上がってきて、中谷はガラスケースから指を離した。



自分のすすり泣く声が、闇を衝いて響く。


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