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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The kiss and the light-31

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誰かの前で、涙を流したことはなかった。

いや、そもそも俺は、涙を流したことがあったのだろうか。

自分が、ただの獣であったら楽なのに。誰を傷つけても、獣であるというだけで理由になる。本であり、獣であり、そしてやはり、心を持つものであるということから逃れることは出来ない。

復讐に生きようとする俺の決意に逆らって、心は発条(ぜんまい)仕掛けのように、愛するということを欲する。俺に必要なのは切り裂くための力であって、守るための力などではない。身体に触れるのは刃だけでいい。優しい手のぬくもりなどではない。そんなものは欲さないと決めたではないか。愛だのなんだのというものを戦いの原動力にするなんてことは飃の奴に任せれば良いと決めたんじゃないのか。

乱暴なセックスだった。暴力を振るったというのではなく、ただ、そこには睦言のひとつ、優しい愛撫ひとつ無かった。動作の一つ一つが、延長線上にある暴力を連想させるようなセックスだった。噛み付き、引掻き、突き刺す…彼女が望んだのはこんな交わりじゃなかったのだと思うほどに、やさしさを知らない自分の手に苛立ち、エスカレートした。

終った後、ぎこちない沈黙が降りることを予想していた。もしそうなれば、慰めなんか要らないからさっさと服を着て、もう俺の事を救おうとするような目でこっちを見るのは止めてくれと伝えるつもりだった。無駄なのだから。

しかし、彼女が背中に回した手は、慈しむように肌を温めた。

「あの子のこと、愛してたのね」

腕の中で、ゆっくりと、彼女は言った。そして、俺の頬にそっと触れた。涙で、濡れていた。

「飆…あなたには、守りたいものと壊したいものが同じくらい、心の中に在るんだ」

彼女はそう言って、眠った。やわらかい吐息が、穏やかにリズムを刻んでいた。



―守りたいものは、今、ここにあるのか?

―一方で、壊さなければいけないものは、確かにある。



彼女が眠った後、俺は自分の部屋に行った。そこは、その効力をあの男に対して強めるために、動物にも、植物にも、あいつの顔を覚えこませる農場だった。それらの中に宿るエネルギーに、主を覚えこませるために、俺の血で養った。壁を埋め尽くす詩の群れは、魔術を使うときの精神的トリガーにするために拾ってきたものだった。一つ一つを手でなぞり、再びはがれかけた憎しみを心に塗りつけた。



―夜のあとを私は追いかけ、夜とともにいく。

私は東に背を向ける、

そちらから慰めが増してきたから。

光が私の頭脳を、

狂ったような苦痛で捕らえるからだ―


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