The kiss and the light-25
「あたしを見てよ」
震える、小さな身体にキスをする。それでも彼女は守るように、飆の手を握っていた。
長い間、ほとんど毎日一緒に居た二人だったけれど、初めて手を触れる場所がほとんどだった。髪を梳く指に、腰を抱いた掌に、中谷は戸惑い、その気持ちは飆も同じだった。中谷はソファに座り、飆が覆いかぶさるようにして向かい合わせに座った。キスを交わすと、呼気の温かさと、舌の艶かしさが勢いに拍車を欠けた。ブラのホックへと伸びた指が、もそもそと背中を這い回る。
「ぷっ」
堪えきれず、中谷が笑った。
「笑うなよ!」
「だって、ほんとに不器用なんだもん、あんた」
くつくつ笑いが止まらず、つられて飆も笑い出してしまった。額をあわせ、冗談がつぼに入ったみたいに笑いが止まらない。もう諦めて、二人とも荒い息でソファに身を投げ出した。
「ったく、お前のせいでムードがぶち壊しだ…」
「あんたが不器用なんだってば」
そしてまた笑ってから、中谷がため息と一緒に言った。
「でも、笑ったね」
飆は顔を上げて、ソファから立ち上がった彼女を見た。
「良かった。じゃあ、明日も早いから―」
言いかけた言葉は、言えなかった。飆が手を引っ張って、彼女を再びソファの上に戻したから。
「なにすん―」
それも言えなかった。キスが彼女の口を塞いだから。身体が慄いて、胸が勝手に高鳴る。ようやく唇が離れた時には、もう笑う余裕など残っていなかった。
小さな刺激が、いちいち彼女を駆り立てた。高みへと、高みへと。本気なのかどうか、聞くまでもなかった。心のどこかで喜びを感じている自分を認めると…素直になるのが少し容易くなった。彼女が“不精髪”と言い、彼が“ヘアスタイル”と呼ぶくしゃくしゃの髪を、中谷の手が触れる。ウイルスに感染したように、色々な、普通じゃないことが身体の中で同時に発生しているような気がした。火照り、焦り、喜び、感じて、そして少し怖い。
「飆…」
シャツを脱がせた肌に刻まれた、沢山の傷跡と、沢山の刺青。不思議に美しくて、そして哀しい。心の中の傷は、こんなものよりよっぽど深い。よっぽど、痛い。大きくて、ざらざらした手が包み込むように中谷の背中に回った。彼女は飆の腰を抱き、深い息をついた。お互いが、お互いを包み込むようなこの位置が、とても心地よかった。
「中谷?」
「ん?」
耳元で聞く彼の声は、いつもと違うような気がした。
「後悔しないか?」
「今聞くわけ?」
言って、笑う。歪な肌が、暖かい。
「後悔なんかしない」
キスを交わし、ゆっくりと横になる。
「きてよ、飆…」