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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The kiss and the light-18

「どうかな」

「昔、言われたんだけど」

中谷は、イスの背もたれに身体を預け、長く深いため息をついた。

「警察が…あたしが取り逃がした通り魔が…別の人を殺した時。その子の母親が、言ったの。この子の死を、ひとりで背負うなって。この子の死は貴方一人で背負えるほど軽くないからって。そして、この子の死を貴方の復讐の道具にだけはするな、って」

中谷はビールを飲んで、小さく息をついてまた話した。

「それを聴いたとき、目から鱗っていうか…目玉ごと落ちるくらい“そうか”って思ったのよ。それで、その人のこと、心から尊敬した。死んだ人は、死んだ人なんだって教えてくれたの…飆。死後の世界や、天国や地獄なんて、死ぬのが怖い人間が勝手に作り上げた現実逃避の道具なのよ。だから、死んだものが復讐を願うなんてことが、あるわけない。それは、残されたあたしたちが、自分の血みどろの憎悪を正当化するだけの道具なんだからさ」

「それが、魔法を扱う狼男に言う台詞かよ」

少しだけ笑みを含ませて、飆が言った。

「あんただって、あたしと同じように一回しか死ねないよ。戻ってきた奴がいないんだから、どっちが正しいかなんてわからないけど」

「慰めてるのか?」

中谷は笑った。

「そう思いたければ、どうぞ」

そして、彼女は飆を見た。彼が彼女を見つめるのとおなじ様に。眠っていた何かが目覚めるような、蕾が解かれるような、初めて見る色の名前を知るような、不思議に心地よい感覚が、心に芽生えた感じがした。

「救ったじゃん」

「ん?」

「さっき、助けてくれたでしょ。あれは回数には入ってないわけ?」

飆はビールの缶に口をつけたまま、ちょっと驚いたように目を丸くした。

「そうか…そういえばそうか…救うとか、助けるとか…あんまり考えてなかったからな」

「なによ、それ」

飆は髪を掻きあげて、考え込むように部屋のどこかをぼんやりと見て、言った。

「死なせたくないな、と…思っていただけだった」

「ふう…ん。そっか」

「ああ」

喜びと、疑いと、二つの気持ちを混ぜてシェイクした気分になって、中谷は言葉を続けることが出来なくなった。

「ま、とにかく、ありがと」

すると、飆が中谷の手に自分のを重ねた。大きかったが、ビールのビンを握っていたせいで、冷たかった。

「言うなよ」

とても哀しげに、彼は言った。

「礼は…言わないでくれ」

夜は、氷が解けるように朝へと解けて言った。


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