光の風 〈回想篇〉前編-3
「サルス!」
廊下で兵士達と話をしていたサルスは声の方を向いた。そこには息を切らした貴未が立っていた。サルスは微笑み兵士との話を終わらせ貴未に近寄る。
「貴未。」
「業務に戻ったって聞いて。」
泣きだしそうな笑顔を見せる貴未にサルスは寂しげに微笑んだ。
「少し休もうと思ってたんだ。付き合わないか?」
二人は歩きだし、人混みを背にしながら話を始めた。
「あれから今まで貴未は救助活動に行ってくれてたんだな。」
「ああ。そっちは終わった。」
自分から切り出した話ながら、サルスは貴未の服装がボロボロな事に初めて気付いた。誰からの命令が出るわけでもなく、貴未は真っ先に部隊を編成し各地に向かったと聞いた。
それにはサルスもカルサも驚き深く感謝している。あの時のカルサの表情は何とも言えないものだった。少しでも触れれば壊れてしまいそうな、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「ありがとう。」
それだけで良かった。その言葉だけでサルスの気持ちは貴未に伝わる。貴未は微笑む事で伝わったことを告げた。別にカルサの為にとった行動ではない。自分の本能に従い、為すべき事をした迄の事だった。
それよりも貴未には気になる事がある。
「城の方はどうだ?」
貴未の問いにサルスの表情が曇る。
「被害者が、多く出てしまった。」
二人の足が止まる。今の救護室は怪我人で溢れ、重傷患者と軽傷患者の部屋を分けたとサルスは続けた。重傷患者の部屋は常に緊迫した空気が流れている。
「外は、思ったより被害が少なかった。」
貴未の言葉にサルスは驚いた。戦力がある城で強いダメージを受けているのだ、外はもっとひどい状況だと予測していたのに。
「敵側の目的が城に集中していた、っていうのが大きな理由だろうけど。」
「何だ?」
歯切れの悪い話し方にサルスは真実を求めた。それをきっかけに貴未は話を続ける。
「光が守ってくれたらしい。」
「光?」
貴未は頷いた。
「村の人達が言うには…聖の力なんだって。」
曇った表情のまま貴未はサルスに答えた。自然と二人は向き合い、何かが通じたようにサルスは首を横に振った。
「聖の行方は分からないままだ。」
顔にも声にも出さなかったが、視線を落としたことによって気持ちを表している。無事でいてくれと、願うことはもう無意味なのだろうか。
聖の姿を見たのは、民達の部屋に結界を貼った時。それが最後だった。紅奈はナルと共に姿を消したきり、二人の行方も分からないままだ。
どうか無事でいてほしい、そう思い続けるのにも限界がある。気持ちがもう、不安に犯され始めていた。