光の風 〈回想篇〉前編-16
「この傷だけで今回は済んだ。」
大聖堂の中、カルサは膝をたて手を組んだまま話を終えた。誰もの視線がカルサの胸へと向けられる。
服の下にある傷の深さを今は見ることができなかった。
「傷は痛むのか?」
貴未の問いにカルサは首を横に振った。医師に診てもらい処置はちゃんとしてあると返す。
「それで、リュナの所に行ったらもういなかったのか?」
怪我の具合を確認したあと、貴未は疑問を投げかけた。
「いや、彼女とは一度合流をしている。それはその後の話だ。」
貴未の疑問には千羅が答えた。
「あら!オレ急ぎすぎた?」
「まぁな。」
貴未の調子に千羅は自然と合わせていた。それは周りには新鮮な光景で、いつしか二人に友情が芽生えていたことが分かった。あまりに珍しい千羅の態度にカルサは少し微妙な表情をする。
「お前ら、楽しそうだな。」
その言葉に皆の視線がカルサに集中した。
「カルサ、妬いてる?」
「え、そうなの?」
「妬いてるね。」
「どっちに?」
「どっちに!?」
貴未から始まり、マチェリラ、瑛琳、千羅、そして貴未と次々に言葉を被せていく。しかしカルサの一喝により、それはあっさりと幕を閉じた。
「うるさい!食い付くな!」
ふてくされたカルサを見たマチェリラは吹き出して笑い始めた。彼女を始めに周りも笑い、やがてカルサにも笑顔が見えた。
穏やかな時間が流れていく。しかしマチェリラの目がカルサの胸の傷をとらえた時から、彼女の表情が徐々に曇り始めた。
「彼女は、貴方の事をどこまで知っているの?」
マチェリラの言葉に場の空気は一瞬にして変わった。笑顔が消え、厳しい表情がまた表れる。
「リュナの事だよな?」
マチェリラの問いに答える前にカルサは確認をした。彼女が誰を指しているかなんて分かっていたのに、不思議と確認をしてしまった。それは逃げなのだろうか。
マチェリラが頷いたのを確認すると、カルサは小さなため息を吐いた。
「だいたいは話した。でも全部じゃない。マチェリラの事も、スターレンの事も、ヴィアルアイの事もまだ話していない。」
カルサの答えに、そうなのと呟きマチェリラは俯いた。しかしカルサの言葉に食い付いたのは違う人物だった。
「今の、オレ知らない。」
貴未の言葉に皆が顔を上げた。
「悪い、気になったけど次の機会でいいや。まずは情報交換だな。」
自身で幕を下ろし貴未は続きを促した。
「何だお前、忙しい奴だな。」
「悪い悪い。」
再び千羅と貴未のじゃれあいが始まり、またも標的がカルサになる前にカルサは打ち切った。
そして話はリュナと合流した時に舞台を移す。
しかしカルサと千羅は気付いていなかった。ヴィアルアイと戦い、自らの過去を明かした場所に、もう一人、身を潜めていた事を。
彼女の瞳からは涙がこぼれていた。