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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈回想篇〉前編-15

「お前は大丈夫なのか?」

応急処置をはじめる千羅にカルサは問いかけた。千羅は微笑み、大したことはないと告げる。その姿にカルサはさっきも甦った記憶をめぐらせる。

「さっき、千羅の言葉を聞いて思い出したことがある。」

千羅は手を動かしたまま視線をカルサに向けた。

「昔、オレが小さい頃…何でか知らないが転んでしまった時があったんだ。」

目の前に懐かしい風景を浮かべているのだろう、カルサは優しい表情をしていた。珍しく昔話をするカルサに千羅は手を止めて見とれてしまった。

「小さかったからな、起こしてくれと周りに頼んだろう。自分で起き上がれと怒られて俯いた時。」

カルサの脳裏に鮮明に映る遠い昔の景色。懐かしむ表情が優しくて、千羅はここが戦場であることを忘れそうになった。しかし遠い目をしていたカルサの視線はいつしか自分に向けられている。とにかく応急処置を進めようと、千羅は再び手を動かし始めた。

「ある人がオレにこう言ったんだ。皇子が起き上がるまでここにいます。って。」

カルサの言葉に千羅は思わず目を大きくした。なぜならそれは、ついさっき自分が放った言葉と全く同じだったから。

「それを言ってくれたのは確か、大地の力を持つ神官バンだった。」

千羅の目が大きく開く。初めて触れる自分のルーツ、千羅の手が止まった。

「あの時、その場にヴィアルアイも居たような気がする。」

あの時の反応を見ると、太古の記憶に少し触れたのかもしれないと思ってしまう。カルサは深いため息と共に目を閉じた。

千羅はそんなカルサの様子を伺っていたが、再び手を動かし始めた。手際良く止血を行なう。カルサが今考えている事が千羅には伝わっていた。

「私は、自分の前世について何も知りません。次に機会があれば、話してもらえませんか?」

カルサは千羅の声に促されるように目を開けた。

「バン、という方と私は似ているようですし。」

千羅が微笑む。いつのまにか終わっていた手当ては、痛みを拭っていくようだった。

「ありがとう。」

カルサがそう告げた瞬間、そう遠くない場所でリュナの風の力が発動しているのを感じた。千羅は思わず立ち上がる。

今までに感じたことのない激しい風の力は、リュナの感情を表わしているようにしか思えなかった。カルサも立ち上がる。

「行くぞ。」

カルサの声をきっかけに二人は走り始めた。


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